一瞬一瞬を。
この瞳に残していきたいんだ。
006:ポラロイドカメラ
「あ、新しいカメラだね」
僕の彼女。
が久しぶりに僕の部屋に来た。
前々から約束していたので、
買ったばかりのポラロイドカメラを
が丁度目につく場所に置いてみたり。
部屋の掃除?
僕の部屋は元々綺麗だからそんな必要はないよ。
「うん、この前姉さんにお祝いだって買ってもらったんだ」
「お祝い?」
「ただの練習試合で勝っただけなのに。
姉さんも大げさだよね、ただ理由付けしたっただけかもしれないし」
そっとカメラに手を触れ、
両手でおそるおそる持ち上げてる。
縦にしたり、横にしたり。
色々な角度から新品のカメラを見つめる。
「そっか……じゃあ私もお祝いすべき?」
カメラを見ながら。
平然とそう言う、。
気付いてないと思うけど。
僕は少し驚いたんだよ?
ポーカーフェイスには自信があるんだけど。
の発言には一喜一憂する自分が居て。
「……良いよ、理由付けって言ったでしょ?」
「えー、でもテニスで勝ってもお祝いって今までしてなかったし」
「それなら余計に良いよ、大した試合じゃないから」
「でも、勝つことって良いことでしょ?」
「そりゃ、まぁ……」
「だったらお祝いしなきゃ、ね?」
パシャ。
、不意打ちだよ?
いきなり構えて、僕を写すなんて。
縦にしたり横にしてたりしてたのは、
もしかしてシャッターを探してたの?
ジーッという機械音と共に。
出てきたのは真っ黒な写真。
は訝しげな顔で写真をカメラから抜き取る。
「あれ、撮れてない?」
「もうちょっと時間が経てば……ほら、見えてきた」
「あ、ホントだ」
うっすらと。
僕の背後にあった部屋のポスターが見えてきて。
どんどん制服の白シャツが見えてきて。
最後には、きちんと写った僕の顔。
「なぁーんだ、変な顔してない……」
「なに?そんなの期待してたの?」
「不二周助の変な顔写真!売ったら高値がつくと思うんだけど」
「……彼氏を人に売る気?」
「冗談よ、冗談!……でも、ちょっと本気」
パシャ。
ふふっと笑いながら。
もう1度僕の顔を撮る。
普通、彼氏の前でそういうこと言うかな?
まぁ別に僕は気にしないけど。
。
今日はちょっとお仕置きが必要じゃない?
「僕にも撮らせてよ?」
「ダメー!私は周助みたく顔良くないから」
「そんなことないよ、は可愛い」
「騙そうったってそうはいきませんよーだ」
カメラを自分より高い位置に上げて。
まぁ、僕は近寄ればすぐ届く高さなんだけど。
本当のこと言ったのに。
信じてもらえないなんて悲しいなぁ。
「じゃあ一緒に撮ろうよ」
「それなら良いけど……」
「なに、その訝しげな顔は」
「周助、何か企んでそうだから」
にしては鋭いね。
そんなこと口に出したら
怒って写真一緒に撮るなんてしないだろうから。
僕はいつも通りの平穏を装って。
と一緒にベッドに座る。
ポーカーフェイスが上手くて、良かったよ。
「ホントに何も企んでない?」
「僕が何か企んでるような顔に見える?」
「いっつも考えてるような気がする」
「それではその罠にハマるんだよね」
「……ってことは何か考えてんの!?」
「いや、今はただお祝いして欲しいなって」
「一緒に写真撮るのが?」
「と一緒に撮った写真を机に飾りたいな、って」
からゆっくりカメラを取り上げて。
すると、は赤に薄く頬を染めて。
改めて愛しいと思うのは。
僕が、彼女を心底愛してる気持ちを表れ。
が好きだよ。
何度言っても足りないくらい。
君のこと愛して止まないんだ。
出来ることなら。
"写真を撮ったら魂が抜かれる"って
迷信が実際に起こって。
その写真を。
僕が始終持っておきたいくらいに。
朝も、昼も、夜も。
授業中だって、休憩時間だって。
さすがにテニスしてる時は見れないけど。
それでものこと頭から離さないよ。
僕の思考を完全に支配して。
返される愛に深く深く、浸りたい。
「嫌?」
「そんなこと、ないけど?」
「じゃあ姉さんにでも撮ってもらう?」
「それは恥ずかしいから絶対にヤダ!!」
「じゃあちゃんとレンズ見てよ」
「うん……って、周助こそ見なさいよ」
手に持って。
目の前にカメラを掲げて。
僕達は余計に座る距離を縮めて。
ぴったりと肌が密着して。
ねぇ。
体温さえ愛しいって変なのかな?
が生きてるんだってホッとする。
隣に居るから生きてて当たり前なのに。
それでも胸を撫で下ろす勢いなんだ。
「じゃあ行くよ?」
「うん」
「3……2……1……」
「……んっ」
フラッシュが光って。
カメラもパシャっと音を立てて。
そのカメラを。
ベッドの上にそっと置いて。
そのままの唇に舌を差し込む。
「んぅっ!ちょっ……しゅう、すけ……」
吐息さえ奪ってしまいたくて。
全てを、僕のモノにしたいのは僕のエゴ?
それをに言ったら。
"私はモノじゃない"って怒るかな?
怒られても良い。
どうしても所有物にしてたい。
恋人なんて肩書きよりもずっと先の。
証が、欲しいよ。
。
こんな僕でゴメン。
自分でもこんなに独占欲が強いなんて思わなかったよ。
でも。
それって、イコールさ。
以上に夢中になったことがないって意味すると思わない?
どうしようもなく好きで。
窒息しそうなほど溺れて。
でも。
が手を伸ばしてくれるから。
僕も手を伸ばして。
そのまま抱きしめられるんだ。
ジーッ。
ポラロイドカメラから写真が出てきて。
小さな音を立ててベッドの上に落ちた。
それを拾い上げて、の前にかざす。
「……こんなの飾るの?」
「もちろん、これが欲しかったんだ」
唇を少し離すと。
僕の唇に息を吹きかけながら。
そう、呟く。
それが少しこそばくて。
誤魔化すように俺も横に寝転がる。
そこには。
目をいっぱいに見開いて。
僕とキスしているの姿が。
これはの変な顔写真って名目で
高値に売れるかもしれないね。
僕?
僕はもちろん目を瞑って普通の顔してるよ。
「こんな変な顔が?」
「変な顔してるのはだけだよ」
「確かに……でも飾るなら周助とは別れる」
「そんなこと出来るの?」
「……出来ないけど、さ」
ぷいっと反対側を向いて。
僕から目を背けながら。
僕にとって嬉しい言葉を吐く。
ああ、もう。
は本当に可愛いね。
何でそんな誘うように言うの?
目の背け方まで俺を誘ってるんだよ?
「どうせなら、顔見て言って欲しいけど?」
「うるさぁーい!えいっ」
「あ」
「コレは責任持って私が預からせて頂きます」
いきなり大きな声を出したかと思えば。
上半身だけ起き上がって。
手に挟んでた写真を奪い取って。
そのまま立ち上がる。
「せっかく僕とのラブラブ写真なのに?」
「周助が、ラブラブ、とか言うの?」
「事実を言ったまででしょ?」
「……その方が良いけど」
「じゃあその写真はあげるから、もう1枚」
「普通の?」
「普通の」
「本当に?」
「本当だよ」
僕は笑顔を崩さないからね。
もう何も考えてないけれども。
的には何か考えてるように見えるらしい。
「……じゃあ信用する」
「じゃあ隣に座って?」
俺は言いながら座りなおすと。
はベッドに上って、そのまま座った。
こんなに幸せで良いのかな。
いつかこの幸せが壊れてしまわないかな。
幸せがのぼる度に。
積み重なっていく不安。
ねぇ。
僕でもこんなこと思うんだよ?
表面では絶対に出さないけど。
こんな僕を。
は幻滅するかな?
それが不安で、言い出せないけど。
「周助」
「なに?」
「不安になったらお守りにして?私もそうするから」
僕は、正直驚いた。
今まさに考えてたことと。
同じような返しが来たから。
少し頬を赤く染めて。
そう言うから。
不安よりも今は愛しさが勝って。
きっと。
これからも不安は抱くだろうけど。
2人の笑顔が傍にあれば。
安らぐくらいは出来るんじゃないかな。
「でももっと不安な時は、電話してね?」
意識的なの?
それとも、無意識なの?
無意識ならは罪作りだよ。
他の男にもそうしてたなら許したくない。
それでも。
この笑顔を失うのなら。
許しても良いと思ってしまう。
僕は実は現金な男なんだね。
「、好きだよ」
「ありがとう」
今度こそ。
笑顔の写真を撮ろうよ。
「じゃあこれ周助用ね、もう1枚」
「今度はちゃんとキスしたの撮らない?」
「……そしたら誰がカメラ持つのよ」
「大丈夫」
「何が?」
「今度は僕自身がカメラになるから」
「……はぁ?」
「僕の瞳がレンズ、瞬きがシャッター」
「……」
「の一瞬一瞬を僕の中に残させてよ」
最初は訝しげな顔だったけど。
だんだん頬が赤く染まっていって。
確かに写真もお守りになるけど。
僕の中にさえ居れば、大丈夫だと思うんだ。
「もカメラになれば良いよ。
そしたら僕達はお互いを中に残せるから」
「……何か、その発言やらしい気がする」
「が望むならするけど?」
「え゛っ……」
の中に僕自身を残せるのは。
もう少し先の話のようだ。
+++++++++++
何で最後シモで終わらすの!アタシ!!
水上涼、告白します。
ラブラブな2人の話はかけないようです。
それを目標に書いたのですが途中でガラガラ崩れました。
やっぱり片思いのが書きやすいです(涙)
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