「……」
食い入るように見つめる先には。
双子の幼児の頭部が切断されるニュース。
『このシャム双生児は……』
食パンを齧り終えて。
椅子に置いておいた鞄を持って。
コートを羽織ったときにそうテレビから聞こえた。
「いってきまーす」
ニュースに後ろ髪引かれつつ。
私は、学校へと向かった。
016:シャム双生児 前編
「オハヨウ〜」
「ハヨ、眠そうだな」
首に巻いたマフラーをといていたら。
前の席の人物が後ろを向いたので、
挨拶をしようと口を開いたら欠伸と一緒に言葉が出た。
「……ん、最近寝不足なの」
片目ずつ目を擦りながら答えると。
話し相手は急に心配したような顔つきになって。
本格的に話をするためか、椅子を動かして私と向き合った。
「……アレ、か?」
「何で宍戸がそんなこと聞くのよ?
確かに4日目だけど」
「は?1週間以上ずっと避けてるだろ?」
「え、生理の話じゃないの?」
「ばっ!誰が、んな話するかっ!!」
平然と答える私に。
宍戸は顔を真っ赤にして立ち上がって、
教室中に響くように声を荒げた。
至極当然。
教室中の皆の視線が宍戸に向けられ。
それに気付いた宍戸は恥ずかしそうに俯いて、
静かに席に座った。
少しすると。
皆はそれぞれに騒々しく話し出す。
宍戸の荒げた声などなかったかのように。
「……で、冗談は置いといてだな」
「冗談じゃないよ?ホントに4日目」
「だから!んな話はしてねぇっつーの!
……跡部の話に決まってんだろ!!」
先程より大分押さえた声で。
それでも私には十分頭に響く声で。
宍戸はそう、言った。
マフラーを鞄の中に仕舞って。
その中から宿題とペンケースを取り出して。
化学の宿題のノートを宍戸の眼前に差し出す。
「黙ってるなら、貸してあげる」
地理・歴史が得意なのも知っていれば。
当然苦手科目も簡単に推測出来て。
推測通りには宍戸は化学が苦手で。
きっと、今日の宿題も出来てないはず。
「……マジメに聞けよ」
「別にいらないなら良いけど」
「マジメに聞けって!」
「……なによ?」
「あ、あのな……」
差し出したノートを机に置いて。
肘をついて、ちゃんと宍戸に目を向けると。
困ったように少し顔を下げて、口どもる。
聞きたいことの内容は分かってるわよ。
私だってバカじゃないんだから。
「……跡部と、別れたこと?」
「……っ、そうだよ」
私が口火を切れば。
宍戸は答えにくそうにそう言った。
教室の騒がしい声はBGM。
一種の音楽のように、耳に響いては、消えていく。
教室から遮断された空間の居るように。
私達の空気は一瞬にして張りつめた。
「宍戸が理由を言って納得するとは思えない」
溜息に似た息を吐いて。
視線を下げると、宍戸はまた声を少し荒げた。
「跡部も納得してねぇんだろ?」
「……さぁ、私なんかもう忘れてるんじゃない?」
「んな訳ねぇだろうが!」
そうだと良いけど。
私は心の中で一人ごちた。
あんなの、跡部はもう忘れてしまっているかもしれない。
「んーっ!良い天気!」
腕を伸ばして、背伸びをしながら。
私は誰も居ない屋上を歩いた。
こんな寒い日に必須のコートとマフラー、
そして自販機で買ったホットレモンティーを持って。
きっと宍戸は今頃怒ってるに違いない。
あの後すぐに先生が来て、授業が始まって。
その授業が終わった後、私はすぐ教室を出て、ココへ来た。
空を見上げると。
冬には珍しいほどの快晴。
空が澄んでいるのは、きっと寒いから。
快晴でも容赦なく風は身体を吹き付ける。
飛び降り防止の高いフェンスを手で握ると同時に。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
グラウンドにばらばらと人が集まって。
先生が統率を取って、トラックの周りを走り出す。
キラキラと光るスレイトグレーの髪色。
本当は出てきた時から気付いてた。
というか、この時間が体育なのも知ってた。
寒さで痛覚が麻痺した手でフェンスをぎゅっと握って。
フェンスと鼻先の距離がミリ単位の場所で見つめた。
快晴の太陽は容赦なく髪に光りをあてて。
存在を誇示させる。
「……景吾」
そう呟いても。
貴方は振り向いてくれない。
息一つ乱してないのがココからも分かる。
平然としたまま、走り続ける。
「……バカ」
白い息が立ち上る中。
ホットレモンティーも飲まずに。
私はフェンスを掴んだまま、立ち尽くした。
「景吾?話ってなに?」
携帯で誰も居ない教室に呼び出されて。
職員室に日誌を戻してから、向かった先には。
「ちょっとこっちに来いよ」
机の上に悠々と足を組んで座って。
相変わらず口角を上げたまま。
ドアの横に立つ私を手招きして。
「部活は?」
「今日は休みになったんだよ」
導かれるまま。
私は何の疑いもなく歩を進めようとすると。
「ああ、ドアは閉めろ」
「え、どうして?」
「良いから、閉めろよ」
正直、嫌な予感が頭を遮った。
他の人に聞かれちゃマズイ話とか。
私と、別れてしまいたいという話だとか。
少し眉根を寄せて景吾を見たけれど。
景吾は口角を上げたままな不敵な笑み。
軽く息を吐いて、ガラガラとドアを後ろ手で閉めた。
教室に2人きり。
ふと、思い出したのは告白のとき。
偶然通りかかった教室に残っていた跡部に、私は好きだと告げて。
それを快くOKしてくれた景吾の笑顔、今も覚えてる。
始まりも2人きりなら。
終わりも2人きりなのか。
無性に、目頭が熱くなりそうで。
「……何の話?」
眉根を寄せたまま。
手招きに導かれるまま。
私は景吾の傍へと歩いた。
「宍戸と、仲良いそうだな」
「……そりゃ、友達だから?」
てっきり別れ話をされるのかと思った私は。
少し肩透かしをくらったかのように、軽く返事した。
でも。
いつの間にか景吾の目つきは変わっていて。
上がっていた口角をゆっくりと下げて。
綺麗な形の唇から、残酷な言葉が紡がれる。
「……お前は、俺のだろ?」
「え?」
「宍戸の彼女にでもなりてぇのか?」
「なに、言ってるの?」
「俺と、別れたいのかッ!?」
急に机から降りて。
私の肩を持ったかと思えば。
その刹那、頭に打衝撃が響いた。
窓が揺れる振動が伝わる。
割れはしなかったけれど。
私の後頭部にひどい痛みが走った。
目の前には。
綺麗な造作で作られた顔が。
怒りで歪み、毒でも吐き出しそうな勢いの景吾が。
脳震盪でも起こしたのか。
頭がクワンクワンと音を立てて。
まともに思考が働かない。
それを好都合だと考えた重力が私を引っ張って床に座らせる。
視界いっぱいに見えるのは、景吾の怒り狂った顔だけ。
掴まれた肩にぐっと力が込められて。
顔を歪めると、目尻に溜まった涙が頬を撫でた。
「……お前は、俺のだろ?」
頬を撫でる涙を唇で吸い取って。
そのまま何度もキスの雨を降らす。
「……んっ……んぅっ」
唇ごと溶かして奪われるかと思うくらい。
景吾のキスは乱暴で、甘い。
何度も角度を変えては、深く深く口付けられる。
苦しくて。
息が出来なくて、苦しくて。
目尻に涙が浮かんでは、頬を滑り落ちる。
ふいに唾液に混じってしょっぱい味がするのは。
紛れもなく、私の涙の味。
「っふ……ぁ……!」
ブチブチッ。
掴まれていた肩が軽くなり。
景吾の手が離れたと思えば。
ボタンが千切れる音がして。
妙に冷たい外気が肌を掠めた。
抵抗しようとしても。
景吾のキスに酔わされて。
くらくらする思考も手伝って、動かない。
別に景吾とは初めてじゃないけれど。
彼氏にこんな強姦まがいなことされると思わなかった。
反抗の言葉に十分に出せないまま。
景吾のされるがまま。
パチン。
小気味良い音がが耳を掠めて。
ズルリと落ちる、ブラ。
景吾のために買った可愛いそれは。
目に留まることなく、床に落とされた。
何度か胸が上下されて。
それからふいに唇が離れる。
ようやく出来た息に、私は深く酸素を吸う。
肺に流れる感覚が、たまらなく生を感じた。
「っんぁ!」
それも束の間。
胸の突起を舌でザラリと舐められて。
少し身体をよじるとブラウスが肩からずり落ちた。
その撫でるような感触でさえ、背筋に何かが走る。
「ふぁっ……ん、あぁ……」
甘噛みされる突起をよそに。
景吾の手の平がスカートに隠れた太ももを撫でる。
ビクビクと反応して震える足を楽しむように。
人差し指が下着の上からいつもの場所に触れて。
ゆっくり、ゆっくり。
撫でるように、焦らすように。
「け……ぇご……!」
喘ぐ声に紛れて。
何とか名前を呼ぶけれど。
いつもの優しい笑みは私に向けられることはない。
ただ。
欲望の当て付けを。
性欲の処理をさせらている。
そんな、様で。
下着を剥ぎ取って。
濡れたそこに指を突き立てて。
ぐっと力を込めて、中に挿れられる。
「んん!」
濡れたそこは景吾の指を易々と受け入れ、形作った。
力を込められたはずだけれど、痛くはない。
それは、何度も景吾を受け入れた証拠。
どうしてこんなことをされているのか。
自分ではまったく分からなくて。
正常に働かない靄がかかった思考は。
ただ、快感を追い求めるだけのモノになって。
中指、薬指、と。
指は3本に増やされてから。
景吾は動きを止めて、抜いて。
私の足をM字に曲げさせて。
私が驚いて目を見開くと。
ようやく私の顔を見て、まるで悪魔みたいに笑った。
「や、やだぁ……!あっ、けぇ……」
「……俺の、だろ?」
誰かが入ってくるかもしれない。
正面のドアを見据えて、声を荒げたけれど。
抵抗は呆気なく、景吾のモノで抑えられた。
確かに繋がっている場所はスカートで隠れて見えないけれど。
なんて、屈辱的で恥辱的な格好、行為。
はたから見れば何をしてるのかなんて当然分かる。
いくら景吾の身体で隠されていたって、分かる。
スカートが揺れて。
無意識に腰も、揺れて。
突き上げられるその感覚に。
生理的な涙が流れて、快感が這い上がる。
「あぅ……あぁ……!!」
「……くっ!っ!!」
決して願いを聞き届けられない。
対等な関係だと思っていた蒼い瞳と。
最後に視線が交わった気がした。
けれど、強い意識の退却に命じられて。
そのまま、意識を手離した。
「……ん」
どれだけの時間が経ったのか。
目が覚めると、床に寝転んでいた。
脱がされたモノはそのままだったけれど。
その上に、肌を隠すように景吾のブレザーが。
「……なっによ……」
周りの光景とのギャップに悔しくて涙が溢れる。
散らばったままの衣服に。
太ももに乾いて張り付いたお互いの液。
何の処理もしていないクセに、最後のこの優しさ。
「ふっ……ふぇっ、くぅ……」
夕日が差し込む中。
私の涙は零れ落ちて。
一生分の涙を流すかってほど。
教室で、景吾とした教室で、泣いた。
フラフラになって帰路について。
私は倒れるようにベッドに転がった。
そして鞄から携帯を取り出して。
留守電になった相手に。
「サ ヨ ウ ナ ラ」
と、告げて。
携帯を放って、また泣いた。
泣き疲れて眠るまで、それが続いた。
それから3日程寝込んで。
何とか体調は回復して、学校へと向かった。
同じクラスじゃなかったのが幸いして。
それからすっかり会わない生活が続いた。
関係を失くせば。
こんなに遠い人だったと思い知った。
それなら最初から。
こんな関係なければ良かったのに。
それでも。
胸が悲鳴を上げて仕方がないの。
フェンスを手の平に跡が残るほど握り締めて。
自分の気持ちを堪える。
「……、好き」
漏れた言葉が。
風に乗って届けば良いのに。
嫌いになれたら楽なのに。
それでも景吾が、好きなのよ。
ねぇ。
一生離れないなんてのは幻想なの?
シャム双生児みたいにずっと繋がってるのは不可能なの?
いつかは今朝のニュースみたいに切り離される運命なの?
切れた糸は2度繋がることはない様に。
私達も、もう繋がらないのだろうか。
+++++++++++
大変お待たせしました。
今回のテーマは『壊れる跡部』でございます(笑)
全部の話書いてからアップ予定でしたので、
手直ししつつ、何とか完成なので、アップです。
いきなりエロでごめんなさい(^^;
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