今まで1度も怖いなんか思ったことないで?
でも、恐ろしいとは思ったわ。
このままじゃ。
俺も、も。
崩れてしまうんやないかって。
だから。
026:The World 3
距離を置いたんは俺からやった。
部活を引退してから毎日のように行っとった
図書館へも行かんくなった。
逢う接点を少しでも減らしたかったんや。
別に嫌いになった訳やないで?
でも、何や恐ろしなってもたんや。
中々消えへんこの耳たぶの赤証が。
俺の全身を。
精神全てを。
縛り付けられる。
そんな、窮屈な見えない糸が。
巻きついて。
巻きついて。
もがけば、もがくほど。
千切れへんように巻きついて。
知らへん間に。
何かを、背負わされとるような。
木枯らしが吹いて。
髪を揺らされたとき。
自然と当たる耳たぶに。
そう、想いを馳せるんや。
決して嫌いになったんやない。
けど、恐ろしいんは事実や。
俺には到底背負えへん。
そんな、重い荷物が。
は学校では決して話しかけてこんかった。
目ぇさえも合わせようとせんかった。
同じクラスやのに不自然なくらいに。
何をそんなに怖がっとったんか知らんけど。
たまに。
暗い影落として非常階段に座っとう時もあったな。
決して泣きはせんかったけど。
俺も、声を掛けることも出来んかったけど。
何やろな。
何か、ちゃうんや。
周りにおる女の子とは雰囲気がちゃうんや。
一見冷めてそうで。
深く深く、愛を求めとる。
与えてくれる愛情を縛りたがる。
何がそうさせるんかはよう分からんけど。
最初は、俺も。
"応えられる"って。
簡単に、そう思ってたんや。
でも。
俺も人間やから。
目に見える泉に水が溜まる見込みがなかったら。
不安になって、修復すんねんけど。
それでも治らへんときは。
諦めてしまうんよな。
原因が分からんかったら。
どうしようも対処出来へん。
テニスも一緒や。
自分の弱点を知って。
どれだけそれを克服するか。
一歩一歩、確実に自分のものにして。
目に見えて成長しとるんが自分でも分かるから。
テニスは、辞められへんねん。
簡単やものやなかった。
好きになったんもホンマやけど。
それ以上に。
それ以上に。
"図書館に、来て欲しいの"
学校におる時やった。
バイブに気付いてポケットから取り出して見たら。
それだけ、打ってあった。
は1人席に座って。
寂しそうに顔を少し伏せて。
半分に閉じた携帯を両手で握っとった。
それ手が。
震えとるように見えるんも。
なぁ。
こんな時に。
"愛しい"って想うんは反則やろか?
嫌いになったんやないんや。
ただ、崩れるんが。
崩れるんがどうしても嫌なんや。
我侭やってなじってくれてええ。
でも。
どうしても、それだけは。
初めて本気になりたくなった子やったから。
同じ位置で意見を交わせる子やったから。
俺の気持ちを。
最大限に活かしてくれる子やったから。
正直、離したくないんよ。
でも。
好きだけじゃ太刀打ち出来ひん位置まで来てしもた。
後戻りは出来ん。
進んで、進んで。
どうせなら、破滅を選んだ方がマシや。
木漏れ日差す中。
はいつも同じ所で立っとった。
図書館の雰囲気も、空気も。
木漏れ日の暖かさも。
の全ても。
何もかも。
そのままやのに。
何も変わってないように思えるのに。
何で最初の頃と景色が違うんやろか。
こんな誰もおらん場所でも。
あんなに居心地が良かったのに。
さらに俺を縛るような。
いつ、そんな場所に変貌したんや。
「侑士……来てくれたの」
の微笑んだ顔見たんも久しい。
こんな時でもちゃんと愛しさはこみ上げて。
弱々しく笑む顔を胸に押し付けたい。
「言いたいことが、あるんや」
「……なに?」
一瞬、顔歪んだん見えたで?
もホンマは分かっとんのやろ?
双方が、崩れそうなことくらい。
答えを。
先延ばしにしたい気持ちは十分分かるんや。
だって、俺もまだ好きやし。
けど。
好きだけじゃどうにもならんて、分かるやろ?
俺らの関係。
結構でかい歪みが、見えるやろ?
「もう、終わりにしよか」
至極当然のようにそう言った。
自分はもう、微笑んでさえおった。
柔らかい笑みを浮かべて。
その驚愕の顔を迎えて。
「なん、で……?」
分かっとるやろ?
俺に答えさせんといてや。
自分で答えを引っ張りだしてぇや。
俺はどこまで我侭なんやろか。
どれだけ、酷い男なんやろか。
好きになったんはホンマや。
今も、好きなんや。
でも。
もう無理なんや。
好き以上に。
好き以上に。
今となっては。
怖い、なんて思うほど。
甘く見とった俺の責任や。
だから、我侭の男となじってくれてええから。
この空間から解き放って欲しい。
いつの間にか傍におって当たり前やった。
その世界を。
ぶち壊したいんや。
「分かっとるやろ?」
「分かんないよ!」
「『崩れるくらいなら破滅した方が良い』」
「……!」
「覚えとう?」
"The World"
勇者は知らない。
村娘が死んだ理由。
勇者は。
村娘に別れを告げて。
長い、長い旅に出る。
村娘は。
その帰りを。
ひたすら、ひたすら待つ。
連絡は皆無。
村娘はただ、信じるしかない。
形のないそれを。
胸に抱いて念じるしかない。
しかし。
村娘の心の1つの疑問が浮かぶ。
もしかしたら。
もう、勇者はいないのではないか、と。
この世界にもう存在しなくて。
自分の前にはもう現れないのではないかと。
小さな村には。
中々勇者の吉報は届かず。
村娘の心には。
暗き闇が渦巻く。
悪は。
人の闇を利用して生まれ。
彼女の心もまた。
その悪へと加担をしていた。
形のない物を信じるのは精神を使い。
村娘の心は完全に闇に覆われた。
床から動けなくなっても。
村娘はただ信じ続けた。
勇者は悪を倒す。
「悪に加担した全てのもの、消えし」
と。
剣を突き刺す。
勇者は知らない。
悪が無くなったことにより。
多くの人間が死んだことなど。
勇者は知らずに、この世から抹消した。
それは村娘も例外ではなく。
母親にこう、遺言を残した。
「彼との関係が崩れるくらいなら、私は破滅を選ぶ」
と。
そう言って。
村娘は果てた。
苦しそうに顔を歪ませ。
事切れた後。
一筋の涙を流しながら。
村娘は確かに殺された。
自分の心の弱さゆえを悔やみながら。
「意味は、少し違うけどな」
「どういうこと?」
「俺らは時期に2人とも崩れるやろ?」
「……」
「そしたら、今の内に破滅させた方がええやん」
「……」
「もう、無理なんや」
そう、静かに呟いた。
の目尻には微かに涙の雫が。
村娘はな。
きっと分かっとったんや。
自分が死ぬことなんてとうに。
愛する者に殺されるんなら。
それなら、望んで死を選ぶ。
殺されることで。
勇者が生きとると分かることが嬉しくて。
その世界のどこかで生きとるっちゅう事実が。
悪に加担した時点で。
勇者が悪を倒さんくても。
自分は死ぬ道を進んどうこと。
それなら。
いつか千切れてまう糸があるんなら。
今切ったって、後で切ったって。
結果が同じなら。
それやったら生きとる事実と引き換えに。
勇者に殺されることを望んだんや。
「ゆう、し……!」
「ごめんな」
「ゆう、しぃ……」
の泣声を背中で受けて。
俺は窓側の廊下を歩いた。
心の中で。
これでええんや。
と、呟きながら。
それでもなんでやろな。
関係が終わったら解放されると思たんや。
今でも十分。
胸をぎゅうぎゅう締め付けるんや。
正体不明の何かが俺に巻きつけて離れへん。
我侭な男でごめんな。
今でもやっぱり好きなんや。
怖がりの俺を。
憎んでくれてええから。
なんだかんだ理由付けてるけど。
俺が本気で怖いんわ。
にフラれることやったんや。
+++++++++++
お久しぶりの更新です。
書きかけのまま放置しておりました(笑)
もう少し続きますので、もうちょっと待ってくださいね(^^;
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