砂と小石で作った王国なんてさ。
きっとすぐに崩れるって分かってた。

それでも。
それでも。
一緒に居られるなら。

どんなに短い期間でも。
その王国が。
崩れるまで共に。


なんて。
都合よすぎる考えで。
今の俺には笑えてくるよ。




055:砂礫王国 後




「……ゴメン、のこと友達としてしか見れない」


ちゃんの告白に。
南が発した言葉はそれだけだった。

冬に入ってその日は1番寒くて。
雨も降ってないのに太陽は雲に隠されて。
同じように2人からは笑みが消えていて。
俺にもいつもの笑顔なんて浮かべられなくて。

体育館裏にちゃんは南を呼び出して。
その前に俺がちゃんを勇気付けて。
南にはちゃんが好きだと告げて。
全ての準備は万全で。
俺はただ1人笑える存在だったはずなのに。

何でこんな泣きたい気分なんだろう。
ちゃんが好きなのは本当でしょ?
誰にも取られたくないって思ってたでしょ?
フラれたちゃんを優しくして自分のものにするんでしょ?


どうして笑えない。
どうして最後まで悪役に徹することが出来ないんだよ。


ああ、分かってる。
十分過ぎるほどに分かってるよ。
ちゃんのことが好きだけど。
それと同じ様に。



南のことも好きだから。



よくつるんでたから。
俺の我侭もしょうがないって言いつつも。
最後には笑って色々してくれたし。
南が笑えば俺も楽しくて。
1番仲良いって言える友達だったから。

その友達の優しさを利用して。
裏切るんだって思ったときは。
どうしようもなく悲しかったよ。
だって。
もう南は俺には笑いかけてくれないだろうから。

でもこんなのは俺のエゴだから。
一生誰にも言うつもりはないよ。
棺桶まで持っていく秘密にするよ。

幻想や仮想が。
いっぱい詰まった王国だから。
現実が襲いかかると脆く崩れ去ってしまうんだ。
そんな仮初でしかない王国だから。




「あ……」
「……」
「……南」


ベンチに座った俺達を見て。
南はそれだけ言って、立ち止まって。
ちゃんは何も言わずに南を目に捉えて。
俺は、存在を確かめるように名前を呟いた。

波が。
大波が。
人生最大の津波が。
俺の王国を潰そうと。


「お前ら……付き合い始めたんだってな」


そんな悲しそうに呟かないでよ。
自分にも納得させるように声を漏らさないでよ。
俺が悪いことしてるって分かってるから。
南まで泣きそうな顔しないでよ。


「……うん、南くんより断然いい男」
「そっか、そりゃ千石のが良いよな」
「ずっと近くに居てそれに気付いたの最近なんだけどね」
「千石は良いヤツだから……よろしくしてやってよ」
「南くんに言われなくても、するよ」
「そりゃ良かった」


2人とも。
何でそんなに悲しそうに会話するよ。
それともそう聞こえるのは俺だけ?
2人には自然の会話なの?

それとも。
俺がお互いの気持ちがまだココに。
2人の中にまだ気持ちが残ってるから。
それを俺が知ってるから。
そう、聞こえるの?

もう壊れるときだ。
天のお告げのように頭の中で響いた。
王国の臣下がそっと俺に言う。


王様は。
自害するしかないんだ、と。


「……ゴメン」
「え?」
「清純?どうしたの?」
「2人とも、ホントにゴメン!!」


今の俺にはこれしか言えないよ。
王城に居る俺は。
臣下に。
そしてその民に。

ゴメン、と。
謝ることしか出来ない。
器のないバカな王様だったんだ。

砂礫で出来た王国は。
もう、滅亡寸前なんです。


「何が?」


怪訝そうな顔をして俺を見つめるちゃん。
もちろんそれに乗じて南も俺を見つめる。

責められる存在なんだ、俺は。
俺がしてきたこと。
告白しなければならないときなんだ。

耐えられないよ。
俺には、もう。

確かにちゃんは欲しかった。
自分の手の内に入れば。
笑顔も、泣き顔も、すべて。
手に入るって。
子供みたいな考えを持って。

でも。
俺にとっては南も大事で。
俺のことちゃんと見てくれる。
そんな存在で。

両方を手に入れることなんて不可能だから。
俺は自分の気持ちを優先してちゃんを取って。
南を裏切って。

俺はなんて自分勝手。
2人の気持ちなんて無視して。
自分の思う通りに2人を誘導して。

自分の満足いく結果なのに。
どこかで感じる不安を簸た隠しにして。


俺にお似合いなのは砂礫王国。
南にお似合いなのは実在王国。
そんなのは初めから分かってたはずなのに。

そしてちゃんは。
実在王国のお姫様になるべき存在だったのに。


「……ちゃんが南を好きで」
「……」
「南もちゃんが好きなこと、全部知ってた」
「え……!」
「千石……!」
「子供だよね、俺……ホント、ゴメン」


きっと2人には伝わったはず。
事実を2人で話し合えば良いだけのこと。
そこには俺は存在せず。
仮初として歴史にも残らず消え去っていくだけ。

自分のしたこと。
本当は後悔してるよ。
でも。
ちゃんと居れたことは。
まったく後悔してないよ。

本当に短い期間でも。
俺はちゃんの隣でいつも幸せで。
いつも隣に居るとドキドキしたよ。
これは、俺だけかもしれないけど。

砂礫の王国を倒して。
実在する王国を建国して。
晴れて南は王様。
そしてちゃんはそのお姫様。



良いじゃん。
とってもお似合い。
2人とも、お幸せにね。



心からそう思えない俺は。
本当に。
―――――――――最低だよ。


「南くん」
「な、なに?」
「清純と、2人きりにさせてもらえる?」
「え、あ、良いけど……1つ良い?」
「うん」
「千石」
「……なに?」
「のこと、好きじゃないのか?」
「……まさか、ちゃんのこと大好きだから。
 こんなことしちゃったんだよ……」
「そうか、もし好きじゃないなら殴るとこだったよ」
「南に出来るの?そんなこと」
「千石相手なら……出来ないかもしれないな」


何で笑えるの?
俺にはその心が分からないよ。
俺だったら。
南が俺だったら。
間違いなく、殴ってるのに。


「じゃあ、俺行くから」
「うん、ゴメンね」
「がコイツ叱ってやって、明日教えてくれたら良いから」
「うん、ありがとう」
「じゃあな」
「……バイバイ」


南は、去った。
もうすぐ王国を建国するからか。
後姿は清々しく見えて。


「清純」
「……うん」
「私のこと、好きなの?」
「好きだよ、一生離したくないくらい」
「南くん、本当に私のこと好きだったの?」
「好きだったよ、俺がちゃんに告白を推したときに
 俺は南にちゃんが好きだって言ってた」
「……」
「南の優しさは知ってたから。
 自分より他人の気持ちを優先するのを知ってたから。
 だから、利用した」
「……そう」
「うん」


まるで。
警察で取調べを受けてるみたいだ。
俺は手錠に繋がれたみたいに。
身動きできないまま。
ちゃんの瞳を見れないまま。
淡々と告白していく。


「見損なった」
「……だよね」
「清純がそんなことする人だとは思わなかった」
「……自分でもそう思うよ」
「でも」
「……」
「今の私の気持ち、無駄にされたくないんだけど」
「え……?」


顔を上げると。
ちゃんはベンチから立って。
俺の前で膝を抱えてしゃがんだ。

ちゃんは俺を見上げて。
俺はちゃんを見下げて。
ちゃんがにこっと微笑むから。
俺はどうしようもなく泣きそうになった。


「確かに腹立つよ、あんなに悲しかったのに」
「……ゴメン」
「でも、慰めてくれたのは清純でしょ?」
「……そうしてちゃんを手に入れようとしたのも俺だよ?」
「じゃああの目も嘘なの?」
「……"好きだ"って言ったときの?」
「そう」
「ありえない、あの目はホントだよ」


本当だよ。
ちゃんが好きなのも。
ちゃんを愛してるもの。
全部本当のこと。

ただ。
俺が汚い手で手に入れただけのこと。
それは裁かれなければならない所業なだけ。


「だったら、ヨシ」
「え?」
「悲しかったし、その慰めも計算の内だったのはムカつくけど。
 今の清純の気持ちが嘘じゃなければ、
 今の私の気持ちだって嘘じゃないでしょ?」
「……」
「確かに私は南くんのこと好きだったけど。
 今は誰より、清純のことが好きなんだけど、な」


ねぇ。
俺ってそんな言葉貰って良いの?
そんな風にちゃんの笑顔受け取って良い存在なの?


「俺もちゃんのこと、大好きだよ」
「だったら良いじゃない、私は許してあげる。
 ま、南くんは怒るかもしれないけどね〜」
「ホントに、良いの?」
「あ、じゃあ1つ」
「……なに?」
「今以上に私のこと愛してくれたら許す!」
「……そんなの、無理だよ」
「どうしてよ?」


良いの?
本当に良いの?
俺なんかで良いの?

本当に悪いことしたのは俺なのに。
こうやって許してもらえるなんて。

じわじわと。
嬉しい気持ちが募って。
ちゃんに愛されてるって。
泣きそうなくらい嬉しくて、嬉しくて。


いや。
泣きそうじゃない。


「俺はもうこれ以上ないくらいちゃんのこと愛してるから」
「……涙流しながら言われたら、照れるね、そのセリフ」


あの時と同じように。
告白した時と同じように。
ちゃんの頬が赤く染まって。
俺の涙を指ですくって。


「じゃあこの涙で許してあげる」


そう微笑んで。
俺の頬にそっと手を添えて。
そのままキスされたこと。
俺は一生忘れないよ。

砂礫王国は確かに崩れたけど。
実在王国に就任出来たのは。
紛れもない俺だってこと。
絶対に忘れないよ。




「あぁ!もしかして、アレも計算だったの!?」
「違うよっ!ちゃん酷いッ!清純激ショック!!」
「そのセリフ聞き飽きた〜」


ケンカの度に。
あの話を切り出されるのは。
正直、辛いんだけどね。アハハ。

でも。
それでもちゃんが好きだから。
ちゃんのこと愛しちゃってるから。


「ちゃんのこと愛してるから、許して?」
「……何か騙されてない?私」


今日も。
栄華を極めた実在王国は。
皆楽しく、幸せに暮らしています。






+++++++++++
ふわぁー、終わりました。
自分の首の縄をぎゅっぎゅっ絞めた作品でした。
いや、でもやっぱり切ないのは書いてて楽しいです。
最近全然書いてなかったなぁ……と思い直してみる。
次も頑張るかぁ!バフン!!


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