「……あーあ、最悪」
そう呟いても。
木の枝で引っ掛けた黒いストッキングの
伝線が治るわけでもない。
ハァ、と一度溜息を吐いて。
ゴミ箱で足元を隠しながら、教室に向かう。
063:でんせん
今日は朝から寒いから。
ストッキングを履いて登校したわけよ。
ツライ体育の授業もなくて、
今日も何事もなく帰れると思って。
掃除当番のジャンケンに負けて。
最後のゴミ捨てをやらされて。
近道をするために花壇を跨いだら、
見事に黒いストッキングに伝線が。
ヤダ、なぁ。
教室にはまだ侑士残ってるよね。
今日は水曜だから部活ないって、
一緒に帰ろうって誘ったのは私なのに。
今、すっごく会いたくない。
代えの靴下なんか持ってきてないしさ。
まさかってコレ脱いで裸足で帰りたくなんかないし。
おそるおそるふくらはぎを覗けば。
くっきりと残る伝線の跡。
黒いから余計に目立つ。
だって全然肌の色と違うんだもん。
黒は細く見えるから履いてるのに、これじゃ意味ないよ。
もう一度溜息を吐いて。
侑士に"用事が出来た"って携帯に
メール送って帰ろうかとも思ったんだけど。
ゴミ箱を持ってる私は絶対に教室に帰らなきゃいけないし。
明日の侑士の機嫌が悪くなるのは確実だし。
もう、最悪。
結局これだけ考えたって。
選択肢は1つしかないんじゃない。
見られたく、ないなぁ。
「遅かったな、何しとったん?」
「あー……うん、色々」
まだ幸いなことに。
伝線が走ったのは裏側で。
侑士に背を向けなければ大丈夫なんだけど。
でも、時期にバレる。
うう、格好悪いなぁ……。
「どないしたん?」
ヒマだったのか。
夕日の差し込む教室で。
いじっていた携帯を折り畳んで。
ブレザーの中に仕舞い込みながら立って。
私に微笑を向ける。
「いや、何でも、ない……」
なるべく後ろを向かないように。
いつものゴミ箱置き場に私が立って、
その前にゴミ箱を置いて、前に移動して足で移動させた。
「……それが何でもないん?」
「何でもないっ、てば……」
確かに不自然な行動。
侑士に背を向けて置けば良いだけのゴミ箱を。
いちいち面倒なやり方で片付ける、私。
我ながらバカだと思うよ。
でも少しでも気づく時間が遅ければ。
侑士に格好悪い所を見られる時間が少なくなる。
「……〜、こっちおいで〜」
「ヤダ」
「即答かいな」
私に手招きするけど。
素直に行くほど私はバカじゃないもの。
断っても。
侑士は余裕で。
二ッと不敵な笑みを浮かべて。
わざとゆっくりの歩調で私の方へと歩いてきて。
「何、隠しとん?」
私の後ろは教室のドアで。
逃げ道を阻むように両腕でその中に閉じ込めて。
「だから、何でもなっ」
「誰かに告白でもされてきたん?」
阻む腕で器用に。
後ろのドアをゆっくりと閉める。
教室のドア特有の音が聞こえるのに。
いつもの教室内の騒然とした空気がなくて。
教室内には侑士と私の2人だけ。
何か、変な感じがする。
「……そんな訳、ないでしょ」
「それにしたら帰り遅かったやん」
「……アクシデントにあったのよ」
「アクシデント?」
「……コレ」
右足をスッと持ち上げて。
見えるように裏側に向ける。
「……血、出とるやんっ!」
「え?……あ、ホントだ」
さっき見たときは出てなかったんだけど。
伝線が入った場所にはうっすらと血の跡が。
ストッキングが伝線入ったときに肌も切れてたんだ。
人間って現金なもので。
自分がケガしてるって分かった途端、
そこが痛くなるのよね。
「……ゆう、し?」
侑士は。
阻む腕をスッとどけて。
足を折り曲げてしゃがむと、
私の右足首にそっと触れて。
伝線が入ったその場所に。
唇で触れる。
「ゆうっ、んっ……!」
チロリと。
擬音でも聞こえてきそうなほど。
傷口を舐め上げる感覚が背中を這い上がって。
舌先のザラリとした感覚が。
どんどん鮮明になってきて。
ゆっくり、ゆっくり。
焦らすように下から這い上がって。
「なんや、やらしいわ」
その言葉に反応して。
私が侑士を見下げれば。
微笑む侑士が私を見上げて。
右足に息を吹きかけながらそう、呟く。
「……おりゃっ」
「きゃっ」
急に腰を掴まれて。
そこを強く押されればこしょばくて。
小さな悲鳴を上げながらドアを伝って座る。
「、ココ弱いやんな〜」
「なっ、なんなのよ……」
「血が興奮作用あるんてホンマやな」
同じ目線で。
また不敵に笑って。
そのまま唇を押し付けてきて。
さっきまで外に居たから。
冷たい私の唇に、侑士の体温が伝わって。
混ざって、中和して、2人同じ温度になって。
歯をこじ開けるように入ってきた舌を。
ゆっくりと絡ませて。
お互いの唾液が混ざるその感覚を。
歯列をなぞられることで余計に感じて。
少し離れては、また貪る。
何度も何度も角度を変えて。
まるで私の吐息さえ奪っているような。
「……っんぅ、ゆう、し」
「もう誰もおらんから、大丈夫やで」
今度は頬に軽くキスして。
そのまま流れるように首筋にキスして。
「ココ、で……?」
「がそんなそそるような格好しとうから、
もう俺、我慢出来ひんわ」
今度は自分を呆れてるように笑って。
自分のネクタイをゆるゆると解きながら。
また、私の首筋に顔を埋める。
「っふ、ゆうし……」
自分のネクタイも解かれるのが分かる。
シュルッと音がして、パサッと床に落ちる音も。
今の私達はお互いを高める音にしか聞こえなくて。
器用に制服のボタンを外して。
冷たい空気が直接肌を刺しているはずなのに。
私の身体は痛みを感じなくて。
むしろ、熱いとさえ訴えそうで。
「あっ……ん」
パチン、と。
いつの間にか裏に回った侑士の手によって
下着のホックは外されて。
そのままスカートの上に落下する。
「も、そのつもりやったん?」
「ちがっ……!今日はたまたっ、んっ」
"今日はたまたま紐ナシだった"という
否定の言葉も嬌声に埋もれて。
侑士はそれを面白がるようにもう一度胸の突起を舐めて。
転がすように弄んで。
下から上に舐め上げて。
挟むように甘噛みして。
「あっ、あ……や……っ」
どんどん上がる息と、声。
抑えようと努力しても。
侑士のなすこと全てに感じてしまって。
否定の言葉は空さえも切らない。
足を手を這い上がる感覚が伝わらないほど。
侑士に酔って。
伝線が走ったストッキングを脱がして。
濡れた下着をそっと脱がして。
花芯を人差し指で何度も上下に擦って。
「、ここビショビショやで」
笑いを漏らしながらそう言う侑士に。
羞恥心が一気に胸を締め付けて。
それでも。
早く触れて欲しいと思うのは。
私が、卑しい女だからなのか。
「あぁぁっ、はぁっ……んっ」
漏れる嬌声が。
妙に頭の中に響いて。
触れられる指の熱さに比例するように
私の吐息の熱も上がっていく。
つぷ、と。
濡れたそこは侑士の指を簡単に飲み込んで。
奥まで挿れては、またぎりぎりまで引き抜いて。
その度にいやらしい水音が聴覚を支配する。
恥ずかしいとか。
誰かが来るとか。
もう思考からは除外されて。
ただ、忠実に快楽を追う。
スカートに遮られて。
接合部分は見えないけれど。
侑士の指の動きは身体の中から伝わって。
背凭れの教室のドアがガクガクと揺れる。
「気持ち、ええ?」
耳元に侑士は顔を埋めて。
息を吹きながら、そう囁く。
耳までも性感帯になったように。
同じようにビクリと身体が揺れる。
「あぁっ!、ゆう……っはぁっ」
ある一点を侑士は爪で引っ掻いて。
私は大きく身体を揺らして。
侑士は耳元で笑う。
指はだんだんと増えて。
その度に辛くなっていく快感。
達してしまいたい、性情。
「挿れる、で?」
「ん……」
硬い侑士のものが宛がわれて。
一瞬白くなる、世界。
何度してもこの白い世界が見えて。
その後はただ、侑士しか見えなくて。
「は……っは……あっ」
ゆっくりと、ゆっくりと。
先へ進むそれに。
圧迫感を感じつつも、愛しくて。
私は。
ゆっくりと侑士の首に手を回して。
抱きしめ合うように身体を寄せ合って。
私の腰を持って。
もっと、もっと深く。
深い場所で繋がるように先へ進んで。
途中で掠るあの場所も。
侑士はちゃんと知っていて。
より大きくなる嬌声をも奪うように口付けて。
何度も歪める顔で侑士は分かってるはずだろうに。
核心をつかないように、焦らして。
「ゆうっし……あぁっ」
「なんや?」
侑士の唇が。
髪。
眉。
瞼。
瞳。
鼻。
頬。
そして。
私の唇を撫でて。
耳を舐め上げて。
「……イキ、たい?」
そう問うから。
私は大きく頷いて。
絡ませる腕に力を込める。
侑士は耳元で鼻で笑って。
腰を少し下げて、そのまま突き刺す。
ナイフのようなそれは。
見事私の身体を切り裂いては、快楽を滲ませて。
何度も腰を打ち付けて。
肌と肌がぶつかる音と。
私が上げる嬌声と。
侑士が時々漏らす息が混ざって。
お互いの快感を刺激して。
「んっ、あっ、あぁ―――――ッ!」
声にならない悲鳴をあげて。
目が最大限に開かれてるのも自分で分かって。
それとは反対に。
自分の中がきゅうっと締まるのが分かる。
「……ッ」
辛い息を漏らして。
侑士は私の中から抜き出すと。
床に白濁の液を出して、果てた。
見えるのは。
白い世界。
始まりにも見た、白い世界。
それに抱かれるまま、意識を飛ばした。
「無理、させた?」
私が目を開くと。
開口一番、侑士がそう問うて。
「……背中、痛い」
「あー、何回もぶつけとったもんなぁ……」
目の前には。
後はネクタイを締めるだけという侑士の姿。
何やら私が意識のない内に下着はついてて、
脱げかけたシャツで前を隠す。
侑士はフッと微笑して。
背中に手を回して、優しく摩る。
柔らかな温度が心地よくて。
また、夢心地のような気分になる。
「今日は部活やってるとこ少ないからな。
俺ん家すぐそこやから、脱いで帰っても平気やろ」
「なに、靴下貸してくれんの?」
「まさか」
さっきは微笑だったのに、
今はいやらしい笑顔を浮かべて。
そのまま両腕を背中に回して。
私を抱きすくめて。
「そのままウチに泊まったら?」
「……明日の靴下はどうすんのよ」
「俺のジーパン履いてコンビニで買ったらええやん」
「……ダボダボだよ、きっと」
「やったら俺好みなん買うてきたるわ」
額に1度キスを降らして。
愛しい双眸で見つめる様が。
ああ、私も愛しいんだなんて。
改めて思う自分さえも愛しくて。
「……変な柄のとか止めてよ?」
「に似おうて、俺好みなん買えばええん?」
「そう」
「やったら簡単や、俺とは一心同体やし?」
「……バカ」
「アホゆうてよ、バカは愛がないねんで?」
「……アホ」
微笑というか。
今度は微笑みに近くて。
私にも同じような微笑みをしてるのかと思うと。
何だか、胸が温かくなる。
平穏な日々に。
突然舞い降りる絶望。
でも。
幸福も同じように降り注いで。
胸の中をいっぱいにしてくれて。
「……好き」
「俺も、一緒」
きっとすぐ伝線のことなんて忘れちゃう。
だって。
侑士が傍に居るから。
+++++++++++
ついに書いてしまいました!エロ夢ですよ!!
まさか自分が書く日が来るとは思わなかったけど(笑)
楽しかったので万事OKです。
忍足さんにあるセリフを言わせたかったので私は満足です。
しかし、男性の客観が欲しいと本気で思いました。
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