不安になった。
休み時間になれば教室に用がなくても。
今までは来ていたのに来ない。
不安になった。
昼休みに用事がある、と。
連続でメールで言われた。
不安になった。
一緒に帰るたびに。
だんだんと口数が少なくなっていく。
不安になった。
最近俺にも見せない笑みで。
他のヤツに笑いかけている。
理由が分からないから余計に。
俺には不安になる術しかなくて。
上からその光景を見つめて。
が見つけてくれるのを待ちながら。
必要がなくなるかもしれないメールを打つしかなかった。
真っ赤な真っ赤な。
廊下の警報機が。
俺の胸で。
サイレンを鳴らしてるようだった。
091:サイレン 中
急いで階段を駈け降りた。
が逃げてしまわないように。
あの調子じゃ逃げられてしまうかもしれないと。
無意識に俺の思考を支配していたから。
靴を乱暴に取り出して。
ロッカーの鍵を閉めるのも面倒で。
きちんと履けてないまま。
鍵も閉めてないまま校門へと急いだ。
玄関を出ると。
他の生徒は校門を出ているのに。
1人花壇に座って、顔を俯かせて。
まるで。
泣いてるようだと。
そう思ったのは遠くから見たからだろうか。
俺は、走った。
少しでも早くでも触れたくて。
もし泣いてるなら抱きしめてやりたくて。
ザッザッザッ。
砂を蹴る音が聞こえたのか。
は急に顔を上げて。
そのまま立って、俺を迎えた。
「……」
いつも鍛えてるから。
これぐらいの距離どうってことないのに。
肩で息をしているのが分かる。
心臓がいつもより早いのが分かる。
の前で手を膝について。
大きく肩を揺らして。
弾む息を何とか抑えようと息を止める。
「亮……」
頼りない。
それでいて心細げな声で。
俺の名をそっと呼んで。
「喫茶店、行く?」
鞄から取り出したタオルを俺の頭にかけて。
まるで泣いてるような潤んだ声で。
そう俺に問う。
顔を上げて。
今日初めて見たの瞳は。
微かに濡れている気がして。
その場で抱きしめたくなった。
このすれ違いの意味が知りてぇ。
どうしてこうなってしまったのか。
原因が俺にあるなら。
どんなことをしてでも直すから。
だから。
だから。
俺から離れないで欲しい。
別れるだけは。
絶対にしたくねぇんだ。
「……いや、あの公園に行く」
「……分かった」
頭に乗っかったままのタオルを。
はそっと取って。
代わりにマフラーを巻いてくれた。
俺と色違いのマフラーを。
「寒いでしょ?」
「……行こう」
その優しさが。
最後の優しさになってしまうのが怖くて。
何も言わずに俺はの手を引いて学校を出た。
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送信者:
件名 :no title
本文 :今日も職員室に用事があるので、
お昼、一緒に食べられません。
テニス部の人達と一緒に食べてね。
また帰りに連絡します。
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「これ、本当か?」
真冬の寒空の下。
枯れた落ち葉が風に舞う中。
並木道を少し反れた所にある公園の。
ベンチに2人で腰掛けて。
いつもなら"寒いか?"とか問いかけてくれるのに。
亮は何も言わずにポケットから携帯を取り出して。
私が昼に送ったメールを開いて。
私の前に差し出す。
「……」
怒ってるのは、確実。
いつもより声のトーンが低いもの。
嘘だってこと、分かってるんだろうね。
「」
何も答えない私に。
溜息を一度吐いて携帯を折りたたむ。
聞くのも無駄だと思ったんだろうか。
私はもう要らないって思われたんだろうか。
「……ゴメン」
「え?」
「こんな尋問みたいなの、嫌だよな」
「……」
「激ダセェ」
自分の感情のままに行動したことに。
ひどく後悔したのか大きく溜息を吐く。
責められて仕方ないのはこっちなのに。
亮が溜息を吐くことじゃあないのに。
私が全部悪いのに。
たとえ。
原因が亮だとしても。
「本当に、何もないのか?」
そんな瞳で見ないで。
本当に私を心配してる瞳で。
悲しみを混ぜながら問わないで。
答えてあげないって。
日曜日からずっと決めてたの。
亮の部屋であの写真を見つけてから。
絶対に答えてなんてあげないって。
言ったら。
言ったら。
言ってしまったら。
おしまいなんでしょ?
そんなの嫌だもの。
"別れよう"なんて言われてしまえば。
私は答えたことを絶対に後悔するもの。
ココで逃げてしまいたいのに。
どうしてか身体が動かないの。
寒いからじゃなくて。
まるで縛られたみたいに。
「……」
「?」
「……」
「……本当に何もないのか?」
うんともすんとも言わない私に。
亮は根気を切らさずにもう1度問う。
気付かないで。
私が言いたくて仕方ないこと。
こうやって会うことを躊躇ったのは。
"別れ"を怖がったから。
もし顔を合わせば。
いつ"別れ"の言葉を発せられるか分からないから。
メールをして。
その危機を避けたことにホッとする自分。
でもすぐに襲ってくる次の不安。
止むことのない不安が。
いつも私を渦巻くけれど。
"別れる"くらいなら。
その方がマシだなんて。
気付かないで。
言いたくて仕方ないこと。
気付かないで。
「……」
目を力いっぱいに閉じて。
スカートの上で拳を作って。
それさえも震えていて。
チェックのプリーツが静かに落ちて。
何か。
全てが堕ちてしまったような。
そんな気さえさせる。
何が終わりか。
もしかしてこれが終わりなのか。
嫌だ、なんて。
心の中では思っているのに。
口に出すのはダサい気がして。
何だかダダっ子ような気がして。
に激ダサな所なんて。
もう何度も見せてるのに。
それでも。
それでも。
ダサい所を見せたくないと思うのは。
これ以上――――――幻滅されて。
これ以上――――――嫌われたくないから。
今以上に――――――好かれてしまいたいから。
が俺なしでは生きていけなくなったら。
それでも良いから。
それで、全然構わないから。
とにかく。
離れないで欲しいのに。
自分の心の言葉を正直に出せない俺は。
を責められる権利がない。
言いたい。
言いてぇ。
でも。
嫌われたくない。
でも。
嫌われたくねぇ。
何があっても。
何があっても。
亮を。
を。