「何が?」
「……え、いや」
先に次の問いを投げかけたのはだった。
やはりさっきの心が残っているのか。
口どもる、俺。
「……俺と、別れたいのか?」
の瞳を見たら。
さっきまで力一杯に開かれていたのが。
今度はめいっぱいに見開いて。
俺を見つめる。
こんな反応が返って来るとは思わなかった。
ただ俯いて、コクンと頷かれるだけかと。
まったく反対のもので。
俺の鼓動はだんだん早くなっていく。
「直球、だね……」
「そうか?……ゴメン」
「謝って欲しいんじゃなくて……」
「ああ」
「亮が私と別れたいんでしょ?」
「……はぁ?」
「……ゴメン、勝手に持って帰ってきちゃった」
鞄の中からスケジュール帳を取り出して。
その中に挟んであった写真を取り出す。
かなり前の見覚えのある写真。
ああ、そうか。
そうだよ、今分かったぜ。
誰に似てるか、今思い出した。
「……コレが、なんだよ?」
「少し、私に似てるよね」
「そうだな」
「外見とか」
「まぁ、言われてみれば……」
「だから?」
「……だから?」
「だから、私と付き合ってるの?」
「……はぁ?」
「昔の彼女でしょ、それ」
「……俺のじゃ、ねぇけど」
「え?」
「それ、兄貴の彼女」
「えぇ?」
「しかもそれ、兄貴」
「えぇっ!?」
ああ、そういうことか。
いくら俺でもやっと分かったぜ。
女ってどうして、そう。
推測だけでそこまでいくんだろうな。
ちょっと尊敬するぜ。
俺にもその国語力っての?
分けて欲しいくらいだな、ったく。
全て私の。
勘違い、ですか?
確かに写真は、古い。
2〜3年前と言われれば納得出来るし。
それ以上と言われてても納得出来るかもしれない。
よく、よぉーく見ると。
もしかしたら少し顔つきが違うかもしれない。
古いから少し分からないけど。
額のテープがない。
2、3年前だったら。
跡部に聞いた話ではもう既にテープしてたはず。
そういえば見せてもらった中学時代の髪型じゃない。
「……て、こと、は?」
「全部お前の勘違いってことか?」
「あは……そうなる?やっぱり」
「っつーか、それしかねぇだろ」
はぁ、と大げさに息をついて。
項垂れるように上半身を折り曲げた。
「ご、ごめん……」
「本気でダメになるかと思ったぜ」
「……大事にアルバムの中入ってるから、
昔の彼女、忘れられないんじゃないかって……」
「身代わりだと、思ってたのか?」
「……そう」
「激ダサだな」
「ホントに、ごめん」
「俺もだけどな、それ、勝手に兄貴が入れたんだろ」
「何で?」
「俺、その時彼女とか興味なかったし。
こんな彼女作れよっていう兄貴の嫌がらせ」
「そう、なんだ……」
「心配、したか?」
したよ。
もうすっごくした。
だって本物じゃないかもって。
この1週間ずっと悩んでたんだもの。
私は好きだから。
何があっても大好きだから。
どうしても離れたくなかったから。
そんな今までの想いが溢れて。
涙へと化身して私の頬を伝う。
宍戸は。
涙を指で拭うとか。
そんなことはしない男。
ただ心配そうに見つめて。
私が返事の言葉を発するのを待ってるだけ。
きっと内心ドキドキのはず。
どうして良いか分からなくて困ってるはず。
そんな男よね、亮は。
「ううん、してない……」
「嘘つけ、ありえねぇな」
「だって私、亮が好きだもの」
「……っ」
「だから、してない」
目尻を濡らしたまま。
少し微笑んだ。
すると亮の顔はみるみる内に赤くなって。
背けるように立ち上がって。
「学校、帰る」
と言って。
ずんずんと来た道を帰っていく。
そして。
ある一定の位置で立ち止まって。
ゆっくりと振り返って。
「行かねぇのか?」
顔を赤くしたまま。
そう言うから。
何だか笑みが零れてしまって。
「亮、顔赤いよ〜?」
「んなことねぇっ!」
「ねぇねぇ」
「なんだよ?」
「学校帰ったら跡部やらに怒られるんじゃないの?」
ベンチから立って。
小走りで亮を追いかけて言ったら。
亮は見事固まり。
「……帰るか」
と。
また反転してずんずん歩いていく。
「明日、私も一緒にフォローに行ってあげるよ」
「……跡部に言ってから来たら良かったぜ」
「そんなことしてたら私、逃げてたかもね〜」
「――――――だから」
「え?」
また止まって。
私のマフラーを首から解いて。
そっ、と。
私の首に巻きつける。
そして。
「俺も好きだから、離れたく、ねぇから」
顔を見せないように。
耳元に唇を近づけて。
いつもより愛がこもったその声で。
私にそう囁く。
耳にかかる息が。
まるで口付けされているように。
優しく撫でているようで。
今度は振り返らないから。
私はそっと駆け寄って。
亮の顔を見ずに。
その腕に、自分の腕を絡める。
「私、亮の部屋行きたいな」
「……また変なもん見つけられても困るんだけどな」
「大丈夫!」
「え?」
「今度からは用心するから!」
「……その前に俺に聞けよ」
サイレンが。
完全に止まって。
心の奥底に。
大きな鍵をつけて。
封印した。
もう2度出てこないように。
真っ赤な悲鳴が。
もう轟かないように。
朝7時45分。
朝練の時間に学校に着いた。
横にはの姿。
1人で行くって行ってたんだが。
跡部にどうしても謝りたいと言って。
俺が家を出た外で、待っていた。
さすがに連れて行かない訳にも行かねぇから。
「おじゃましまーす……っ」
部室に入ると巨大なスクリーンが出迎えて。
は一瞬たじろぐが、
横の扉が開いてるのに気付いてそろそろと入っていく。
「失礼しま……あ、オハヨウ」
「良い朝だなぁ、」
「あー、ホント良い朝ねぇ……」
「何しに来た?昨日の宍戸のフォローか?」
「そう、私が悪いから」
「仲直りでもしたのか?」
「もちろん、アンタみたいに彼女コロコロ変えるようなヤツじゃないからね」
「ひでぇ言われ様だな、なぁ、宍戸?」
跡部に名前を呼ばれて。
俺は後からのそのそとその部屋に踏み込む。
思い出すのは中学時代。
あの時は不動峰の橘ってヤツに負けたから
レギュラー落ちしたが。
練習1回休むこともレギュラー落ちに繋がることは事実だから。
仕方ねぇと言えば仕方ねぇんだがな。
「……昨日は練習休んで悪かった、この後監督の所に行くから」
「その必要はねぇよ」
「「え?」」
俺達が声を揃えて聞き返すと。
大きなソファに悠々と座って。
ニヤリと笑って俺達を見つめる。
「監督には俺から用事だと言っておいた」
「跡部、が……?」
「……やるわね」
「俺に惚れてみる気はねぇか、?」
「絶対にイヤ、死んでもイヤ」
「俺も他の男好きな女なんかお断りだよ」
「ホント自分勝手ね、アンタ」
「それが俺様の売りだからな」
「……私は女だけどアンタの良さが分からないわ」
「跡部」
「……なんだよ?」
「サンキュー、な」
「感謝しろよ?ま、余興にしては楽しかったからその代金だ」
「余興?」
「、宍戸の死んだような目、お前見たか?」
「見てない!」
「あれは傑作だったぜ?」
「跡部!」
コイツ!
何余計なこと言いやがる!!
「えー!?宍戸!やって!」
「出来るか!」
「なんや、なんでおるん?」
「あ、2人一緒ってことは仲直りしたのか!?」
忍足と向日がユニフォームに
着替えるために部屋に入ってきて。
俺達の姿に笑みを零す。
「ご心配かけまして、この通り元サヤです」
「原因はなんやったん?」
「の早とちりなんじゃねぇの?」
「う゛……」
「図星かいな」
「オイ、」
「な、なによ?」
「出て行け、俺達はこれから練習だ」
「朝練終わるまでココで待たせてよ」
「ココはレギュラー専用の部室だ」
「練習中は誰も居ないんでしょ?」
「当たり前だろ」
「だったら良いじゃない!この寒い朝に教室で待たせる気!?」
「、教室にも暖房ついとるやん」
「あ、分かったぜ!!!」
「な、なによ?」
「このソファで寝たいんだろ!?」
「う゛ぅ゛……!」
「その反応はまた図星やな」
「出て行け!」
「いーやー!」
「テメェ、犯すぞ!」
「警察に訴えてやるー!」
「お前ら……よく宍戸の前で、ってあり?」
「どこ行ったん?」
「良かったですね、宍戸さん」
「ああ、まぁな」
ラケットを担いで。
俺達はコートに向かう。
今日長太郎は日吉と来て。
準レギュの部室で一緒に着替えたそうだ。
「俺心配したんすよ、宍戸さん、俺達と一緒に食べるから」
「だから、に声掛けたのかよ?」
「そうなんすよ、宍戸さんの話題出したら意外と平気そうでビックリして」
「そうか」
「でも"ずっと一緒のイメージがある"って言ったら
顔俯かせちゃいましたけどね」
「お前のおかげで昨日仲直り出来たからな、サンキュー、長太郎」
「いえいえ!俺なんて全然……でも、良かったですね」
「ああ」
「じゃあこの貸しは練習付き合ってくださいね!」
「いつも付き合ってるじゃねぇか」
「今度の土曜、一晩中!です」
「一晩中!?」
「先輩の了解済みですよ」
「アイツ……」
、日曜日一緒に出かけようっつってなかったか?
長太郎との会話を覚えてない証拠だな。
「宍戸さん、約束ですからね!」
「あ、ああ……」
また不安がらなきゃ良いけど。
国語力は人並み以上みてぇだし。
まぁ、長太郎だし。
が勝手に言ったんだし仕方ねぇよな。
でも。
こうやってお互いが。
こうやってお互いを。
想いあってるってことを。
知るのは案外良いことだな。
でも。
こうやってお互いが。
こうやってお互いを。
想いあってるってことを。
知るのは案外良いことなのね。
まぁ。
こういうのは後になって
やっと思えるんだけどよ。
まぁ。
こういうのは後になって
やっと思えるんだけどね。
俺がが好きなら。
も俺を好きで。
離れたくねぇってお互い想ってて。
それって結構すげぇことだよな。
亮が私を好きなら。
私も亮を好きで。
離れたくないってお互い想ってて。
それって結構すごいことだよね。
ダセェかもしれねぇけど。
それでも良いんじゃねぇかと思う。
亮の言葉を借りるなら。
「激ダサ」かもしれないけど。
それでも良いんじゃないかって思う。
今頃跡部とケンカしてるかもな。
休み時間にグチを聞くのも。
それも一緒に過ごせるなら良いよな。
さっきの跡部のグチ。
散々聞いてもらうんだから!
ついでに忍足と向日グチも!!
さて。
さて。
次はいつ言えるだろうな。
次はいつ聞けるんだろうね。
好きだ。
って。
+++++++++++
やっと完結しましたぁー。
いや、本当は1日で書き上げてたんですけどね(笑)
結局はこんなオチでごめんなさい。
最初から考えてたんですが、こんなんでした(^^;
もっとアッと驚く展開とか書いてみたいものです。
BACK