正レギュラーの部室の前に着くと、
半開きのドアから話声が漏れていた。
ジローは先に樺地に迎えに行かせて
もうすぐ連れてくるはずだから、
中に居るのは向日と……
だろう。
声も間違いない。
手強い相手 後
「っ!約束は守ってもらうぜ!!」
「……わ、わすれてた……
どうも姿が見当たらないと思ってたら覚えてたとは……」
「何だよっ!人をバカみたいに言うなよなっ!?」
「ハイハイ、約束は守るわよ!
女に二言はありませ〜ん」
「よっしゃ!
俺、この日を楽しみにしてたんだぜ〜」
「アンタが嫌なヤツに見えてきたわ……」
明らかにテンションの違う2人の会話を聞き、
俺は入るタイミングを失った。
これから入るのも何だし、
この2人の会話を聞いてから入るのも悪くない。
のこと、
何でも知っておきてぇと思うのはおかしいことか?
近々俺の女になる予定なんだから
今知っても良いことだろ?
部室の壁に背を預けて、
俺は2人の会話に聞き入ることにした。
「でっ?でっ??
誰なんだよ、の好きなヤツって!」
「……いきなり核心ついてこないでよ、
こっちだって心の準備ってものがあんの!」
心臓が大きく上下に動いた。
まさに予想してなかった出来事に、
俺の心臓は早く動き出した。
テニスでも滅多に味わえない
緊張感が俺を支配していく。
冷たくなっていく身体とは反対に
身体の中心が熱くなっていくのが分かる。
俺様らしくもない。
誰かのことでこんなに動揺するなんて。
……自分でも分かっている。
俺は中に居るが好きなことぐらい。
今まで女なんて使い捨てだった。
寝てしまえば関係はすぐ切った。
道具だった。
ただの玩具。
新しいモノをどんどん求めて、捨ててきた。
けど、俺は初めて手に触れられない至高の玩具を見つけた。
俺が触れてはいけない最高の宝石。
それがお前だ、。
でも、欲しい。
今までのように使い捨てなんて出来ないくらい欲しい。
飽きさせない自信はある。
お前だけを愛していける自信はある。
だが、お前に拒否されるのがどうしても……怖い。
自信が空回りするのだけは避けたい。
自分に自信があってもの前では皆無だ。
……俺を好きになれよ、
俺だけのお前で居ろよ。
「だってさ、日吉でも分かってんのに
俺だけ知らないなんてずりぃじゃん!!」
「私、日吉には言ってないよ……
ガックンももっと頭働かせなよ」
「くそくそ!
ハッキリ言わなきゃわかんねぇだろ!!」
「んもう……そんなに怒らなくったって良いでしょー?」
ホントに日吉に言った記憶ないわよ?
多分はたから見れば私の気持ちなんて
皆にバレバレなのよね。
分かってないのは当の本人と、
この目の前の向日岳人だけ。
態度によく出しちゃうんだから
分かってもおかしくないと思うんだけど。
さっき怒ってたのだって……
昼休みに裏庭に呼び出されたかと思えば、
今日のウォーミングアップの話だとか……
思わせぶりな態度取ってんじゃないわよーッ!!
あの跡部景吾なら押し倒すぐらいの甲斐性見せなさいよね!
裏庭なんだから!!
そのせいで午後の授業はダメダメだし、
朝賭けしてたガックンとの約束忘れるし。
もう最悪、コレ程テニス部のマネージャー
辞めたくなったの初めてだわ。
「……?何考え込んでんだよっ?」
「あ、ゴメンゴメン……じゃあ耳貸して、コッソリ言うから」
誰かに聞かれちゃマズイから私はガックンを手招きして、
耳元で彼の名前を言った。
「あれ?跡部、どないしたん?」
俺が中の様子を伺っていたら、
前方からさっきのヤツらが来た。
タイミング悪ぃな、コイツら。
今良いところなのに。
「何や俺らのこと待っててくれたん〜?」
「違うに決まってるだろ」
「……跡部まで冷たいんかい」
「もう1年がコートの整備始めてますよ、急がないと!」
「そうだな、長太郎!
じゃあ早く入って着替え―――――」
鳳と話しながら宍戸は部室のドアノブを回し、
半開きのドアを全開にした時、
「……えぇッ!?マジッ!?って跡部が好きだったのーッ!?」
部室に居た向日が外に漏れるほどの大声で騒いだ。
は慌てて、ガックンのバカーッ!!、と
口を押さえたが後の祭り。
部室のドアを開けた宍戸と、驚いた鳳、
ニヤけてる忍足を見て悲鳴を上げた。
「きゃーッ!何でアンタ達がココに居るのよーッ!!」
「いや、俺らテニス部やねんから部室に来るんは当たり前やろ〜?」
の言葉に反応して、
1番最初に部室に入ったのは忍足だった。
ケラケラと笑ったまま入っていったのが気に食わないらしく、
は怒鳴る。
「屁理屈言うなーッ!やっぱアンタなんか嫌いよーッ!!」
「そんなんゆうたかて、
まさか岳人に告白されるとは思わんかったやろ」
「……は?何が?」
「今の、コートまで聞こえたんじゃねぇの?」
「その可能性は大ですね」
忍足に続いて宍戸と鳳も部室へと入り、
前方からはジローを担いだ樺地が来た。
樺地はドアの前で俺に、ウス、と
挨拶してから部室内のソファにジローをどかっと落とした。
「ま、まさか……」
一連の樺地の動作と忍足の発言を聞いて
はまさかと思いつつも確信したようだ。
この俺様がココに居ることに。
「……」
の足音だけが部室内に響き、
そろりそろりと部室を出る。
そしてゆっくりと俺が居るほうに首を向けると、
おずおずと問いだした。
「……いつ、から、居た、の?」
「向日の約束がどうとかって所から」
「……っ!?ほとんど最初からじゃないッ!」
「そうとも言うな。
……で?お前は俺様が好きなんだって?」
「……っ」
どうしてだろう。
心の中では嬉しいと思っているのにこんな態度を取ってしまうのは。
意地悪く聞いてやるとは頬を膨らまし、
俺からは顔を背けた。
俺は鼻でフッと笑って、
の手を引いて歩き出した。
今度は俺の気持ちを伝える番だろ?
嫌になるほど聞かせてやるよ、俺の気持ち。
は黙ったまま静かに俺に手を引かれ、
ずっと顔を俯かせていた。
人生18年、いや、生涯の恥になりかねない出来事。
まさか自分からじゃなく、人に頼んだわけでもなく、
自分の意図しないまま本人に知られてしまうとは。
本当はこの手を振り払って逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
だけど、無意識なのだろうか。
手を握った時の跡部の顔はすごく嬉しそうに笑ってたの。
ねぇ、期待して良いの?
このまま付いて行って、返事もらえるの?
好きだよ、って返事、もらえるの?
「あ、あと、べ……」
ドコまで行く気なの?、
という意味を込めて呼びかけると跡部は足を止めた。
意味が分かったのかな。
いつの間にか着いた場所はまた裏庭だった。
「昼休み、ココに呼んだよな?」
「え、うん……」
「本当は俺様が先に言うつもりだったんだよ」
「……な、なにを……?」
期待して、本当は何か分かってるのに聞いてしまう私はずるい?
でもね、これだけ待ったんだもの……
少しくらい跡部に意地悪しても良いよね?
「……分からねぇのかよ?」
「何のことだかサッパリ」
分かってるのに。
今すぐ跡部に抱きつきたいのに。
変な女のプライドが邪魔してそれが出来ないでいる。
跡部には散々振り回されたんだもの、
少しぐらい私にも焦らさせて?
手強い貴方だもの。
焦らすのが得意なのは調査済み。
「さっき俺様のこと好きとか言ってたじゃねぇか」
「それはガックンが言ってたことでしょ、私の口からじゃないもん」
目には目を。
歯には歯を。
本当のことには本当のことを。
だって本当でしょ?
私からは跡部に気持ち伝えてないよ。
夕方の少し涼しい風が私達をからかうように吹き抜ける。
その風に押されて言ってしまうそうになる自分を抑えて。
「……俺はが好きだぜ?」
「……私も。
私も跡部が好きで好きで仕方ないの」
跡部が風に押されたのかな?
ようやく言ってくれた。
……ねぇ、信じて良いの?
今の私じゃ貴方が言ったこと全部信じちゃうよ?
ねぇ、良いの?
私なんかで良いの?
「もう微妙な関係は終わろうぜ、面倒だ」
「うん、言ってくれて嬉しい……私はずっと好きだったから」
そう言って笑うと跡部も笑った。
いつもの笑顔じゃない。
もっとトクベツな笑顔で。
私達はお互い自然に抱き合い、そして唇を重ねた。
「……怒ってゴメンね?」
「いや、分かってる」
「……分かられてるのも何かしゃくだなぁー……」
「のことで俺様が分からねぇことなんてあるはずねぇだろ?」
やっぱり貴方は手強いね。
嫌って言うほど私のこと分かってくれそう。
でもそれが快感に感じるのは、
私も跡部のこと好きだからよね。
「戻ろっか?部長さん」
「景吾で良い、気味悪ぃだろ」
「ハイハイ、でも遅れると示しがつかないよ〜?」
「主役は遅れて登場すんのが常識だろ?」
跡部らしい発言……っと、景吾だったか。
風向きと同じ方向に振り向けば、夕日が沈みかける前だった。
心の中で、景吾、と呼んで景吾の腕に自分の腕を巻きつける。
「心の中で練習してからね?」
「好きだぜ、」
ちぐはぐな会話。
ちっとも思い通りになんない。
なのにどうして嬉しいのかな。
夕日に見守られて、私の手強い男の攻略が始まりそうです。
+++++++++++
跡部景吾さんでした。うぁ、甘甘ですね。
初めてのキャラ独白で四苦八苦しながら頑張りました。
良いな良いな、すんげぇ私の中でモエ台詞があるんです。
い、言われてぇー(笑)
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