ガチャリ。
「あ」
「……あ」
「……っ!?」
突然の出来事に思考停止状態です。
帝王様のご命令
ドリンクの粉がないのに気づいて部室に戻り、
ガチャリと音を立てて扉を開くと……
「あ、……?」
「あ、失礼しました」
入ろうとした足を後ろに戻し。
そのまま同じくらいの音で扉を閉めた。
しばらく呆然。
マ、マジなの……?
何?
私の見間違い?
……いや、それは絶対にありえない。
これでもかってほど、
3年の宍戸亮と2年の鳳長太郎の唇は引っ付きあっていた。
最後に声を掛けたのは多分忍足……
うん、あのイントネーションはそんな気がする。
もう1歩下がろうとした時、
急にバランスが崩れて後ろに居る人の胸に当たった。
「何してんだよ、てめぇは」
「あ、あとべ……」
「あん?」
「……テニス部って恋愛禁止令出てるっけ?」
「あぁ?」
「そう、出てないよね、うん、出てない。
だ、だけど!部室でなんて……!!
ふ、不純異性……っじゃない!不純同姓交遊だよ!跡部!!」
いきなりの出来事で随分戸惑ってる。
……いや、前からそんな噂はあったんだけど。
でも、でも、でもでも!
まさかこの目で見てしまうとはっ!!
気が動転して跡部の背中に周り「開けて」とお願いする。
跡部は軽い溜息を吐いた後、
樺地くんを顎でしゃくって扉に向かわす。
そして樺地くんは何の躊躇もなく扉を開け、
私達に中の状況を見せる。
一直線に出てきて私を部室内に連れてったのは。
……し、宍戸っ!!
「っ!」
「な、何よっ!い、言わないよ?
言わない言わない……跡部には言ったけど
他にはまだ言ってないから!」
「そうじゃねぇって……何か勘違いしてんだろ?」
「か、勘違いって……え、唇だけじゃなかった―――――」
「へ、変な想像すんじゃねぇっ!!」
そう言いかけた時。
関西のツッコミ並に激しいはたきが私の頭を直撃した。
何だか周りに星が飛んでるようなー、あれれー……
「い、痛いじゃないのよぅ、宍戸ぉ……」
「お前が変な想像するからだろうがっ!!」
「そうやで、。
アレはおふざけや、お・ふ・ざ・け」
「おふざけ……?」
「ちゃんと唇の間には、ほら、
ガムの銀紙が引いてあるんすよ」
「今ね〜、王様ゲームしてて今のは
忍足の命令だったってわけ〜!たのC〜!!」
ジ、ジロちゃんが起きてるってことは
余程楽しいってこと……?
っつーか、長太郎。
あんたあの瞳は絶対に本気だったわよ。
黒い長太郎を垣間見た気がしたわ。
宍戸は相も変わらずまだ真っ赤だし、
ガックンは……あれ?
「ガックンはどーしたの?」
「鳳の命令で監督にバラの花1輪お届け中〜」
か、監督に……ッ!?
ガックン……ぶ、無事に帰ってこれるのかしら……?
しかも1輪ってバラ100本より意味深……
次から監督のガックン見る目変わってたらどーしよ……
「それよりらもやらん?
多少の過激ネタでもええからさ」
「はぁ?あんた達練習しなさいよ!」
「ええやん?たまにはパーッと皆で騒ぐんも……なぁ?跡部」
「勝手にしろよ」
「ちょっ、跡部まで許しちゃって良いの!?」
「何でもアリなら誰かの弱味、
握れるかもしれねぇんだぜ?」
「よ、弱味……?」
「それで言うこと聞かせれば良いんじゃねぇの?
たまには娯楽も必要だろ、なぁ、樺地?」
「ウス」
そう言って跡部は少し輪から離れた
パイプ椅子に座って、長い足を組む。
もちろん樺地くんはその横に立って待機。
そうか、さすが氷帝ナンバー1男と名高い跡部景吾。
……アンタのおかげで私は目覚めたわ!
そうよ!
今まで好き放題に練習し、
好き放題にサボってたコイツらレギュラー陣の弱みを握り、
私の言うことを聞かせる……
こんな良い男達が私の下で動く。
……くぅ!溜まんないかも!!
マネージャーの雑務、
ちゃあんとこなしてもらうわよぉ……?
「おっけぇー!乗るわ!その話乗るわ!!」
「お?めっちゃ乗り気やん♪
それこそ燃えるってな〜」
「じゃあ向日先輩が帰ってきてからに……
って、待っててもムダですかね?」
「い〜んじゃない〜?先に始めちゃって、
も跡部も居るんだしC〜♪」
「はぁ、まだやんのかよ……」
「そやったら割箸追加して……と、
じゃあスペシャルゲストのから〜」
「私?……お〜さま〜お願いっ!」
侑士が差し出した割箸の中から真剣な眼差しで
選び出した1本に狙いを定めて、
「そいやっ」と抜き出す……
けど、まだ見ちゃダメなのよね。
うー、気になる。
その後順々に引いていって、
最後の1本が侑士のものになった。
「じゃあ行くわよ?せーのっ」
「「「「王様だーれだっ!?」」」」
ノリノリなのは私と忍足と
長太郎とジロちゃんだけみたいで、
後は仕方なく参加してる宍戸と
弱み握るために居る跡部、となればいる樺地くん。
でも後からなって考えたら樺地くん、
王様になったらどうするつもりだったのかしら?
謎よね、氷帝テニス部ってホント謎の宝庫だわ……
っと、今は王様ゲームに一本集中!
……ちっ、2番とはついてないわね……
「だ、誰よ……?」
「だれだれ〜?」
「俺はちゃうわ」
「俺も違うぜ?」
「僕も……」
「ウス」
「……ってことは……」
「俺様、みてぇだな?」
口の端をいやらしく上げ、
割箸に描かれたクラウンを私達に見せる。
皆の瞳が大きく開き、一瞬その場の空気が固まった。
そして全員一様に同じことを思ったに違いない。
「初っ端からお前かよ」と。
「あ、跡部なのね……」
「お手柔らかに頼むで〜?」
「お前が多少の過激ネタでも良いっつったんだろーが」
「そ、それは言葉のあやゆうか……」
「まぁ、最初だしな……さっきみてぇのはしねぇよ」
「さよか」
「跡部〜、何すんの〜?」
「そうだな……2番が俺様の目の前に跪いて
"跡部景吾様、私は一生貴方の奴隷です。どうぞ好きにしてください。"
とかどうだ?」
「なっ、何ですってぇっ!?」
に、にに、2番って……
紛れもなく私じゃないっ!!
わ、私が……跡部に跪いて……
ど、奴隷と……しかも好きにしてくれとっ!?
「さすが、氷帝の帝王様やな……」
「忍足もあっさり認めないで否定してよぉっ!!」
「、それぐらい良いじゃねぇか」
「宍戸まで!あんたまで私を裏切るのっ!?」
「俺なんて……いくら長太郎でも、キスだぞ……?」
「そっちのがマシよぉっ!
銀紙さえあるんなら……く、屈辱だわぁ〜……」
「まぁまぁ先輩、ただのゲームなんだし」
「長太郎!あんたは甘いわ!!
あんたはこの男の本性を―――――」
「」
「命令だぜ、ココに跪けよ?」
鶴の一声とはこのことだろうか。
跡部が話し出すと周りはまた空気が固まった。
この男は一生私がやったことについて脅してくるに違いない。
……コイツはそういう男だ。
く、悔しい……
私が弱味を握ってやるはずだったのにぃ〜っ!!
私の考えもお見通しのようで、
今もいやらしく笑ってる……
「……分かったわよ、女に二言はありません」
「良い度胸じゃねぇか」
挑戦的な瞳で見ると、
挑発的な瞳で返してくる。
周りはもう話すことも出来ず、
じーっと私と跡部を交互に見ている。
私はゆっくり跡部に近づいて、
足を組んだ手前で膝をつける。
「良い眺めだな」
「そりゃどーも」
かぁーっ!
正直マジで悔しいわよーっ!!
まさか私までもがこの男に跪くことになろうとは……
下から見上げる跡部の顔はやっぱし悔しい程綺麗で……
見蕩れちゃうのも分かるわね。
今はいやらしく笑ってるけど、
授業中の真剣な顔とかホントはカッコイイんだから。
「……何かリクエストはありまして?王様」
「靴先舐めろとでも言われてぇのかよ?」
「ナンデモアリマセン」
「じゃあ言えよ」
本日一番甘い声で言われてしまった。
……はぁーあ、この男には勝てないわ。
私は意を決して跡部の綺麗な瞳を見ながら言おうとした時、
「跡部景吾さ―――――」
「たっだいまーっ!いやぁ、疲れたぜ〜、
何か監督すんげぇ嬉しそうな顔してんの!!
"向日、ありがとう"なんてさ!
お茶ご馳走になってきたぜ!
美味かったー……って、何してんの?」
「む、向日……」
「え?……ご主人様とメイドごっこ?」
「ちっ、樺地」
「ウス」
「えっ、ちょっ、ぎゃああぁぁぁぁ〜」
「が、岳人っ!」
「侑士〜っ!俺何もしてねぇのに〜っ!!」
「……いや、お前かなりタイミング悪すぎ」
「跡部部長が怒っても仕方ないですね」
「俺がいつもされてるのが岳人がされてる〜、
こっから見るとたのC〜♪」
跡部の命令で向日は頭1個以上離れた
樺地くんにつまみあげられ、わたわたしている。
それを見てレギュラー陣はやんややんや言っている。
……た、助かった……?
跡部も機嫌悪そうだけど、
これ以上は私に要求してこないみたい……。
「はぁ……」
自然と肩の力が抜けて、
トボトボと部室内に置いてある
長椅子に座り自分の鞄を引き寄せる。
その中から取り出したのはムースポッキー。
から拝借してきたのよね♪
それを1本口に加えてやんややんやしてる
光景を遠くながらも笑っていると
「随分楽しそうじゃねぇか」
ドカッと、大きな音を立てて跡部が座った。
機嫌は……まぁ、すこぶる悪そうなんだけど。
「あんたに一生からかわれないかと思うと嬉しくて仕方ないのよ」
「へぇ……さっきのは無効になる訳だな?」
「この状況じゃ続けられないんじゃない?」
「けど、俺は納得してねぇぜ?」
「あんたが納得しなくても―――――」
「」
―――――そんなまっすぐな瞳で私を見つめないでよ。
跡部の淡いブルーの瞳に自分の顔が微かに映っている。
……何だか、瞳が離せなくて。
どんどん跡部の瞳の中で私の顔がハッキリと映りだされる。
ポキッ、ポキッ、ポキッ。
ムースポッキーがゆっくりと音をたてて
反対側から折られていく様はひどく魅力的で。
舌を使ってポッキーと口の中に
放り込む姿はひどく魅惑的で。
私はその感覚に酔って思わず跡部の頬に手を添えた。
そして、私達の唇は軽く触れ合った。
そして目を開くと私の顔が確認出来る程近くに跡部の瞳が、ある。
「あと、べ……」
「王様ゲームの定番と言えばコレだろ?……分かれよ」
「え……?」
「奴隷にしてでも一緒に居てぇってこと」
「……あんたねぇ、それじゃ伝わらないわよ」
「あぁ?」
「"様。僕は君のことが好きで好きでたまりません。僕を一生の恋の奴隷にしてください。"」
「……」
「って言えたらご褒美に付き合ってあげてもよろしくてよ♪」
「ふざけろ、てめぇは俺に惚れてんだから俺のものになる運命なんだよ」
「……ったく、この自意識過剰ナル男くんは……」
「違ぇのかよ?」
「花丸100点なんじゃない?」
どちらともなく私達は笑い出す。
それに気づいた皆が何だ何だと凝視する。
そんな視線さえも気にせずに私達は笑う。
ただ笑う。
私達の初キスはムースポッキーのイチゴ味。
きっとこれから始まる甘酸っぱい恋の味なんだよね?
「てめぇら、は今から俺のモンだ……手ぇ出すなよ?」
「ま、マジかいな?っ!?」
「ま、そーゆーことなんじゃない?
跡部が言ってるんだし……っと、
あんた達レギュラーのクセに遊んでるヒマなーしっ!
とっとと走ってくるっ!!」
「か、帰ったらちゃんと話聞かせてやーっ!?」
騒いでた集団を外にまとめて出し、
扉を大きな音を立てて閉め出した。
「ふぅ」と溜息を吐くと後ろから
跡部に抱きしめられた。
「景吾って呼べよ」
「景吾、ね。りょーかい……
良い匂いだね、すぐ景吾だって分かりそう」
深い海のような匂いに酔い、
胸に頭を預ける。
気を抜けば吸い込まれそうな匂い。
……全身が景吾に支配されてしまいそうな。
「今度同じの買ってやるよ」
「嬉しい……はい、景吾も一緒に走ってくる!部長でしょ?」
「……はぁ、ムードのカケラもねぇな」
「そーゆー女が良いなら別へどーぞ」
「じゃねぇと意味ねぇよ」
腕を離すときに耳でそう囁かれ。
景吾はこっちを向かずそのまま出て行った。
「景吾、好きよ……」
私の甘酸っぱい想いを連れて去ったまま。
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定番の王様ゲームをテーマに。
丁度良いフォト素材が見つかってほっと一安心(笑)
好き故の所業。貴方は許せますか?
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