こんな関係の銃口先
毎朝毎朝同じことの繰り返しで。
つまらない毎日を過ごしていて。
誰かにこの世界から助けて欲しくて。
それが貴男だと気付いたのはそれから少し後で。
そう思ってた時期からなんとなく付き合っていたけど。
見返りを求めない関係はどこか冷めていて。
私達はお互い何も干渉し合わなかった。
だから。
ただの肩書きだから。
淋しいときには何も言えなくて。
ただ一人で泣いた夜は限りなくて。
"傍にいてよ"なんて口が裂けても言えなかった。
学校を出れば他人の友達も。
二の次を狙っているのか。
「跡部くんなんか止めた方が良いよ」
と私に小さく囁いて。
いつ終止符を打っても良いと思ってたこの関係。
でもそうしなかったのは……。
貴男の隣は誰の横よりも温かいのを無意識に知ってたからで。
私はその温もりをどうしても手放せなくて。
自分の気持ちに嘘をついて真実を見誤ってた愚か者。
それに気付いたのは屋上でのある昼下がり。
お昼を一緒に食べる約束をしてない私達は。
学校でも滅多に連絡を取り合わない。
お互いの時間を自由気ままに過ごす。
楽だけどひどく淋しくて。
孤独は人を弱くして。
自然と涙が流れでて。
泣きたい時に泣けないのに。
泣きたくない時にどうして泣けるのよ。
「うっ…うぇっ…」
沸き上がる嗚咽を止める術は知らなくて。
どうすることも出来ずただ泣き崩れる。
屋上は誰も居ないし、
泣き喚きさえしなければ誰にも聞かれることはない。
でも。
外に響くよりも。
自分の中に響くほうが余計に辛くて。
抑えて抑えて。
涙をただ流すだけで。
ただ寂しいの。
傍に居てなんて我儘は言わないから。
せめて誰かと関係を繋いでおきたいの。
私の存在を理由付けてたいの。
そうするしか。
私は私を保ってられないの。
「うっ……ふぅ、うぇっ……」
大声で泣ける居場所なんか持ってなくて。
家でも私一人で住んでる訳じゃないし。
家族に聞かれてしまうのもひどく怖い。
ポケットからはみ出していた携帯が、
コツンと音を立てて床に落ちた。
折りたたみの式の表に着いている画面に
表示された名は。
"跡部景吾"
マナーモード、プラス、サイレント。
音も震えもしない携帯がただ、光る。
貴男からの電話は気まぐれで。
滅多に連絡なんて取り合わないのに。
どうしてこんな時にかけてくるのよ。
ピッ。
「ぐす……はひ?」
『……何一人で泣いてんだよ』
鼻をすすって。
その上に鼻声で喋れば。
いくら跡部だって気付くわよね。
「……どうしてこんなっ、ときにかけて、くんのよ」
そう言えば。
貴男は一度舌打ちして黙り込む。
思い通りにならない私が不満で仕方ない?
でも。
貴男も関係を断ち切らないのは。
私と同じだと思うのは自意識過剰?
「……逢い、たい」
無意識にそう想って、吐き出した。
確かに関係に存在理由を見出したいのも事実。
でも、それ以上に貴男が好きなのも真実。
好きなのに。
近くに居てくれるのに。
それでも孤独を感じる自分が許せなくて。
そうやって悩めば悩むほど。
自分が自分でなくなるような気がして。
拳を作ってみせれば。
力があり余ったようにブルブルと震える。
息が荒くなって。
呼吸するのが苦しくなって。
音を立てて息を吸うのが頭に響いて。
余計に自分が分からなくなって。
ゴメン。
なんて謝っても。
届かない言葉が宙を彷徨う。
キィ。
錆びたような音が背後で聴こえて。
ビクリと肩を揺らして。
分からないわけないでしょう。
圧倒的な存在感で私を背後でも魅了して。
そんな貴男に惹かれないわけないでしょう。
「少しは思い通りに動けよ」
私は座ったまま貴男を見上げて。
貴男は立ったまま私を見下げて。
忌々しげにそう呟いて。
私は静かに涙を一筋流す。
跡部は私の手から携帯を奪って。
自分のと同時に電源を切る。
どうしてその動作も綺麗なのよ。
もう止めてよ。
これ以上離れてるって自覚させないで。
「あと、べ……」
「、お前は俺の女だ」
「……」
「……一つ聞くぜ?」
「な、に……?」
「女一人の泣く場所も持ってねぇような男に見えるか?俺は」
思わず目を、見開いてしまった。
あまりに真剣に聞くものだから。
普段の跡部からは想像も出来ない。
そう、言ってしまえば。
こんな弱々しい跡部は初めてで。
寂しそうに笑むその姿に。
私はズキリと心に痛みを走らせた。
ねぇ、酷いことしてる。
私、また跡部に酷いことしてるわ。
あんな自信家の貴男をこんな風にしてしまうなんて。
私のせいで弱くなった跡部を見ることになるなんて。
それと共に生まれるのは親近感。
完璧な貴男でも元はこんな人間で。
私と同じ人間で。
こんな不安な気持ちを抱く日もあって。
連絡を取り合わない日でも。
私のこと考えてくれたりしたの?
少しでも私の顔を思い浮かべたりしてくれたの?
私もよ。
寂しい時はいつも貴男のこと考えるのよ。
それで余計に孤独を感じても。
貴男のことを考えずにはいられないの。
「一人で泣かせるために付き合ってんじゃねぇんだよ」
「……ん」
「今度一人で泣いてみろ、その時は……」
「そのとき、は……?」
「お前を俺の傍から一生離さねぇ」
涙に濡れた頬に手を添えて。
貴男はそのまま貪るようなキスの雨を降らす。
強引で。
それでいてどこか優しいキス。
お互いの舌を絡ませあって。
お互いの唾液を混ぜあって。
空を舞う吐息さえ奪い合って。
身体が上気して。
求め合うように昇りつめたくて。
私を孤独の巣から連れ出して欲しくて。
散々唇を貪った貴男が息をあげて少し離れて。
「プレゼントはお前だ」
と言って。
今度は軽く頬に口付ける。
「本当のお前を手に入れた日だ、覚えてろ」
貴男がもっと近くに居てくれるなら。
この不安はいつか消えるかもしれない。
あの疎外感をどうにかしてくれるかもしれない。
お互いにお互いを手離せない関係で。
私達はもう手を伸ばせば掴める関係になれる。
「一人にしないで……?」
「これからは飽きるほど愛してやるよ」
誕生日おめでとう、なんて。
貴男には散々言われた言葉だろうから言ってあげない。
歪んだ愛でも良いなら受け取って?
「ただ俺を見てろ、飽きるなんてことありえねぇから」
いつもの跡部だわ。
その凛々しい自信に満ちた瞳で私を打って。
銃のように射抜いてくれたら私は私で居られるわ。
「愛してるぜ、……離さねぇ」
最後は私に言った言葉?
それとも、自分を戒める言葉?
どちらでもいい。
貴男に愛されるなら。
そうやって一つ階段を登る跡部に。
置いていかれぬように。
+++++++++++
果たしてコレはバースデードリなのか(真顔)
そんな質問が飛び交ってきそうですが、アハハ。
跡部の求めてる言葉って本当におめでとうなのかなぁ、なんて。
それもこれもS&T2の跡部が甘々だから悪いのです(笑)
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