「私の誕生日もうすぐなんだよ、知ってた?」
「知らねぇよ」
「うっそだー!本当は知ってるクセにー!」
「何で俺がお前なんかの誕生日知らなきゃならねぇんだ」
「だって、私と景吾はそういう関係でしょ?」
教室で。
堂々と人目も気にせずに。
お前がそんなことを言うから。
クラスの空気が一瞬にして冷たくなり。
全員が奇異の目でお前を見る。
「お前、もうちょっと発言考えろよ」
「全て事実を言ってるまでよ」
事実?
立派な歪曲じゃねぇか。
俺とお前がそういう関係って自体がおかしい。
そもそも。
お前は、一体。
誰なんだよ。
…みたいなアルケー。妄想劇場
いきなり教室に入って来て。
俺の顔を見るなり。
「景吾!オハヨウ!」
と、教室の壇上で罵ったお前。
もちろんクラスの連中は俺を見て。
それから怪訝な顔をしてお前の方を見たな。
そんな視線を物ともせず。
その場から俺に手を振る始末。
まったく知らないそいつの顔を。
俺は一瞥くれて睨んだが。
お前の表情は変わらず笑顔で。
ふと思い出したように後ろを向いて。
白いチョークでカツカツ音を鳴らして書いた文字は。
「です、皆さんどうぞよろしく」
別に俺のクラスに転校してきた訳でもねぇのに。
突然俺の前に現れた変なヤツ。
初めて会うはずなのに。
馴れ馴れしい態度で。
気安く最初から名前を呼びやがって。
「よろしく、ね?」
いつの間にか俺の机の横に立って。
窓の外を見ていた俺の顔の前に手を差し込んで。
ひらひらとさっきと同じように振って。
俺を自分の方を向けさせてそう言った。
何なんだ、お前は。
そんな表情を浮かべたと思う。
それでも怯むことのないお前。
バカバカしくなって。
一度息を吐いて教室を去った。
そのまま屋上に向かって。
梯子を上った先の給水タンクを背凭れに、目を閉じた。
夢を、見る。
けれど目を覚ますと全て忘れている。
まるで起きる前に隠蔽を施されたかのように。
伸ばされた手は宙さえも掴み損ねて。
開かれた手の平に触れるのは実体のない空気。
それさえも何故か冷たく感じて。
"孤独"
なんだと。
思い知らされる。
この夢が何を意味するのか。
何度も同じように隠蔽される意図は何なのか。
知りてぇとは思うけど。
知る術がねぇってのもある。
こればかりは俺でもどうしようもねぇ。
俺自身の無意識の問題なのだから。
知る時がくりゃあ知ることが出来るんだろうが。
それまで待てるかが問題だな。
って、待つしかねぇんだけどよ。
「あ、景吾はっけーん!」
お前が俺の前に現れて。
1週間ぐらい経ってからか。
呆気なく俺のサボり場所は発見され。
お前は俺がサボる時間のタイミング良く現れやがる。
「ねぇ、さっき教室でのことまだ怒ってんのー?」
「……」
「ホントに事実を言ったまでなのに……」
「どこがだよ」
「まだナイショ、それよりさ!もうすぐクリスマスでしょ?」
「……」
「私の誕生日、クリスマスと近いから一緒に祝おうと思って」
「……誰と、誰が?」
「私と、景吾が」
顔に特大広告のように"嫌だ"と書いたのに。
それでもお前の笑顔は崩れない。
梯子を完全に上って。
俺の隣に当たり前のように座る。
「……ったく、お前は何なんだよ」
忌々しい瞳で睨んでも。
大抵のヤツは怯むのに。
お前は怯えもせずに笑顔で俺を見返す。
その鉄壁のような笑顔は。
もう何度崩そうとしたか思い出せないほどだ。
俺の前では始終笑顔で。
俺がどんな顔をしても。
楽しそうに、微笑んでいる。
「ナニ?人間、だけど?」
「そんなこと聞いてねぇ」
「じゃあ……景吾の運命の人?」
「ちっ……お前は誰だ?」
「」
「何故俺につきまとうんだ?」
「景吾とはそういう関係だから」
「何故俺の名前を知っていた?」
「……ナイショ」
「質問にちゃんと答えろ」
「黙秘権、あるでしょ?一応尋問なんだから」
俺も質問も。
苦ともせずにさらりとかわして。
やはり笑顔で。
俺の忌々しい表情を受け止める。
お前だけには敵わねぇ、とか。
無意識に思っているのか。
俺はいつもお前には強く出れねぇ。
これが何を意味するのか。
答えは目の前にあるはずなのに。
最強と名高い鉄壁は決して壊れなくて。
どれだけ攻撃しても崩れようとしない。
正直、イライラする。
何故俺がこんなにも答えを求めているのか。
夢にしても、お前にしても。
どうして簡単に手に入らないのか。
「あれ、景吾帰っちゃうのー?」
「……」
「今日は珍しく樺地くん居ないんだね」
「……だから、どうした?」
「私と2人きりで話したかったのかと思って」
「……」
馴れ馴れしい態度が気に入らねぇ。
そんなこと平気で言うのが気に入らねぇ。
始終笑顔で、俺の言うことをかわすのが気に入らねぇ。
本当にワケがわからねぇヤツだ。
でも。
普通なら無視してしまうのに。
どうして俺は返答してしまうんだろう。
俺さえも分からない。
深い深い無意識が。
勝手に俺を操作して。
お前の言葉に反応して。
応えてしまう。
俺の中に眠る。
潜在意識の意図が。
知りたくて知りたくて。
今はただ、気になって仕方ねぇ。
「はい、バレンタインデー」
「……なんだ、それは」
「だーかーらっ、バレンタインのチョコレート!」
「……熱でもあんのか?」
「失礼なっ!……お返しは3倍で良いから」
「あぁ?」
「ホワイトデー、ね?」
「ふざけた事ほざくな、テメェ何様のつもりだ?」
「景吾のお姫様?」
「なっ!……チッ」
バカバカしい。
何でこんなにむきになってんだ、俺は。
お前相手に何も通用しないのは分かってるじゃねぇか。
お前が俺の前に現れた2ヶ月前から。
ずっと分かってることじゃねぇか。
それでも。
何でなんだろうな。
こうやって。
部活のオフの日は一緒に帰って。
(というか、お前がただ付いてくるだけというか。)
他愛もない会話をして。
ただ俺を無性にイライラさせて。
お前の鉄壁の笑顔は崩せなくて。
俺にとってデメリットでしかないお前が。
こうやって隣に居ることが当たり前のような。
ずっと前から、そうなような。
この雰囲気さえ、懐かしいような。
「……いつ見ても豪邸ね」
「当たり前だろ、俺様が住んでんだから」
「私もその内住むのかしらー」
「一歩も入れてやんねぇよ」
「奥さんになればいつでも入れるから今は我慢しとくわ」
「勝手に言ってろ」
「じゃあね、また明日!」
「……」
俺が門に手をかけると。
すすっと俺の傍から身を引いて。
駆け足でそう言って。
俺の返事も待たずに去っていく。
夕日の方向へと走っていく姿。
どこかで見たような、そんな感覚。
こういうのをただのデジャ・ヴュと呼んで良いのか。
よく分からない感覚に包まれる。
今冬1番寒い夕方に。
少し待てばすぐに夕日は沈むのに。
何故か早く沈んで欲しくて仕方なかった。
無意識に門を握る手に力が込められた。
「……お前」
一瞬目を疑った。
目の前にはお前が居た。
いつもの笑顔で。
いつもの制服を着て。
いつものサボりの定番の屋上で。
目を瞑っていた。
寝てるようだった。
風が吹いた。
ひどく冷たい冬風が。
前髪がさらりと横に動いた。
そこから見えるのは。
「き、ず……?」
右寄りに斜めに入った傷。
少し古いようで。
それでも跡は消えていない。
くっきりと存在を誇示している。
風が、ぴたりと止む。
しかし、お前の前髪は戻らない。
時が止まったようにだんだん色を失っていく。
時期に世界は灰色となり。
黒色へとなって、闇へと消えていった。
そこで。
俺は1度瞬きをした。
見える世界が変わった。
セピア色の古い、古い過去。
それを客観的に見ている。
まるで映画のような情景だ。
ここは見覚えがある。
俺の家のすぐ近くにあった公園。
よく家を抜け出してはその公園に来て。
同年代の子供が遊ぶのをそっと見てた気がする。
「……キミ、だぁれ?」
背後から声を掛けられて。
ビクリと一瞬身体を震わせて。
おそるおそる振り返った先には。
セミロングでカチューシャをして。
前髪を一切カチューシャで押さえ込んで。
額をさらけ出したその少女。
「……あとべ、けいご」
「けいご?」
「そう、キミ、は?」
「わたし?……わたしはね、」
瞬きをした。
また、世界が変わった。
「きょう、ようちえんでおうじさまとおひめさまのおはなしよんだの」
「へぇ、どんなんだった?」
「わたしも、おひめさまになりたいっておもった!」
「じゃあ、なればいいんじゃねぇ?」
「でも、だれの?」
「おれでよかったら、なってやるよ」
「ほんと?けいごがわたしのおうじさま?」
「ああ……っと、かばじか」
「ウス」
「こんにちわ」
「ウス」
「じゃあかえるから」
「うん、またね、けいご」
「ああ、またな、」
最も重要な場所で。
俺はどうやら瞬きするのが当然らしく。
その少女の名前が分からぬまま。
物語は進んでいく。
「あ、ボールが……!」
「あ!まってっ」
夕日の差し込む公園で。
黄色いテニスボールが。
公園の外にある道路へと転がっていく。
俺はそれを追うように駆けていき。
もちろん少女もその後を追う。
「……つかまえた!」
「……っ!けいごっ!!」
「えっ?」
身体が押された。
覚えてるのは真っ白な光と。
急ブレーキのタイヤが地面に擦れる音。
そして。
服にべっとりと染み付いた自分のじゃない鮮血と。
真っ赤な夕日に照らされた血まみれ顔の少女の姿。
「この子にもしものことがあったらどうするんです!?
跡部証券会社の跡取りですよ!?」
「っ、すいません……」
少女の父親らしき人物が。
唇を噛み締めながら俺の母親にそう言った。
「まったく、これだから庶民の子供は。
景吾さんももうあんな場所には行ってはいけませんよ」
「……」
「景吾さんは無傷でお母様は良かったわ。
貴方にもしものことがあったらお母様は生きていけないもの」
「……」
「それじゃあ先に車を回しておきますね。
時間が来たら景吾さん、下に降りてきてくださいね」
「……っ」
俺の母親は。
言いたいことだけ言って。
少女が眠る病室から足早に去った。
少女の頭には真っ白な包帯が巻かれ。
右寄りに薄く鮮血が滲んでいるのが分かる。
そして、少女の瞳は見開かれない。
あんなに表情豊かな笑顔が見られない。
「景吾くん、と言ったね」
肩にポンッと置かれた手が。
震えていると分かったのはすぐ後で。
目尻は少し濡れ、俺の肩に力を入れないように必死で。
「悪いが、もうココには来ないで欲しい」
「……」
「キミのことを見ると、きっと憎くて仕方ないだろうから」
「……」
「この子が望んでしたことなら、責めたくても責められない。
それでも私は親だから……きっとキミを責めてしまう」
「……はい」
「今日は好きなだけ居ても良いから、最後にしてくれるね?」
「……はい」
「……じゃあ」
震える手をどけて。
目尻から溢れんばかりの涙を耐え。
彼は音も立てずにその部屋を出て行った。
俺はそっと近づいて。
少し冷たい手を握った。
本当に生きているのかさえ分からないくらい。
冷たく、無意思の手。
涙が、溢れそうだった。
そのまま頬を伝いそうだった。
それを我慢したのはその少女に悪いから。
本当は自分が悪いのに。
謝るのは全て少女側の人間で。
涙を流したくて仕方ないのは少女側の人間なのに。
必死にそれを耐えた姿を見てしまったから。
泣けない。
絶対に、泣いてはいけない。
抑えるように少女の手を強く握る。
「景吾さん、遅いから迎えに来ましたよ」
その静けさを破るように。
俺の母親は無造作にドアを開けて。
母親のSPが俺の反対側の手を握って。
引っ張って俺を病室から引きずり出す。
俺はもがいた。
"嫌だ"と何度も連呼した。
その願いは聞き入れられることはなく。
母親の頬をはたかれて放心状態となった。
真っ白な空間に。
ひどく鮮明的な少女の姿。
カーテンが風によって舞い。
少女の輪郭を見送ることした出来ない、俺。
家に帰ってから。
水も食事も拒否して。
数日部屋から一歩も出ずに。
ベッドの布団から頭を出さずに。
少女は眠ったまま。
水も食事も口にしないのなら。
当然のごとく俺もそうするべきだと思ったから。
喉は唾で微かに潤し。
腹は空腹感を表す音が鳴って。
それでも我慢をした。
俺は同じ罰を受けるべきだと思ったからか。
何日か過ぎた後。
母親が部屋に入ってきた。
白衣を着た男性と共に。
俺は無理やり椅子に座らせられ。
白衣の男性と対峙して。
「この指を見て?……辛い思いはもうしなくて良くなるから」
辛い?
俺は辛くなんかない。
当然の報いだと思っている。
しかし。
だんだん意識が虚ろになってきて。
男性の顔も時期に見えなくなっていった。
ぼうっとした白い空間に。
笑顔の少女の姿が。
だんだんと白く霞んで。
消えていくのが最後の記憶。
そこで、瞬き。
今度は真っ暗な空間にただ1人。
2つの繋がる糸がピンッと音となって銀色に光る。
なぁ。
どうしてこんな大事なことを忘れていたのか。
最初は見覚えがない顔だと思った。
でも、一緒に居るうちに。
どこかで見たような気もしていた。
曖昧な焦点を絞っても、中々思い出せない。
お前は。
全て知っていたのか?
お前のことを頭で考えると。
目の前には最初と同じようなお前が寝ている姿。
さっきから時間の経過はなく。
傷が痛々しく残ったまま目を瞑っている。
そして先程と同じように。
彼女の色はどんどん失われ。
灰色へ、黒色へ。
気付いた俺は。
指先を必死にお前へと伸ばす。
遠ざかっていくお前を。
必死に追いかけようとするが。
重くて、思い通りに動かない。
あの時と同じように。
お前の輪郭は薄れていって。
思い通りに動かない足を動かしながら。
見送ることしか出来ない。
最後の力と言わんばかりに。
腕を伸ばして、伸ばして。
呼ぶ。
「っっ!!!」
息が、荒い。
顔には何筋もの汗の跡。
伸ばした手が宙を彷徨う。
寝ているにも関わらず肩は上下に動き。
心臓の鼓動は故障でもしたかのように早い。
俺は落ち着くように。
ゆっくりと伸ばした手で拳を作り。
ベッドから上半身を起き上がらせる。
横には俺の愛猫が寝ていて。
いつもとなんら変わらぬ朝のようで。
ポトリと。
俺の布団に染みが広がる。
急に頬が冷たく感じて。
手で触れると。
涙。
一筋の涙の筋が。
俺の頬にくっきり残って。
全てを、流す。
結局。
また夢の内容は思い出せない。
こんなにも俺は汗をかき、鼓動は早いのに。
また隠蔽されたように俺の中へと潜りこんでしまった。
「……ハハッ、ハハハハッ」
ワケがわからないのは俺かもしれねぇ。
何だか自分を嘲る笑いがこみ上げてきて。
従うままに天を仰いで笑う。
その夢が何を意図するのか。
気が済むまで踊ってやろうじゃねぇか。
その先には俺が納得する結果が待ってるんだろ?
ココまで簸た隠しにするんだから当たり前だよな?
少し開いたカーテンから。
新しい一日を告げるように光が差し込む。
どうせなら。
太陽がいつまでも俺を照らして。
夢なんて見させない身体にしてくれれば楽なのにな。
でも。
それは逃れられない宿命。
そう告げるように太陽は今日も天高く輝く。
今日は何故だか歩きたい気分で。
運転手に断りを入れて、樺地にも先に行かせて。
冬風に吹かれながら音のしない住宅街を歩く。
「景吾、オハヨウ!」
学校へ行くには曲がらなければならない角で。
お前は俺が来ることを予想していたように。
人の家の壁を悠々と背凭れにして。
明るい調子で俺にそう言う。
「……何故居る」
「今日は景吾が歩きそうな気がしたから」
「……盗聴器でも仕掛けてんのか?」
「毎日ココで待ってるって行ったら信じてくれる?」
「信じるワケねぇだろ」
「今日はホント偶然なんだ、きゃっ」
目の前から。
襲ってくるように突風が吹いた。
俺は顔を顰めて片方の目を閉じ、
片目でお前の額の傷を確認した。
お前の前髪がふわりと浮き。
風が止むと同時にその傷は隠れた。
お前は両目を閉じ、風が止むと目をそろりと開けた。
「……さむぅ〜、今の風寒すぎ!」
「……」
「景吾?どしたの?」
「……何でもねぇ」
今。
何か頭を掠った気がする。
そういえば夢で。
同じような。
大切なものを見つけた気がするのに。
「……ホント?」
「まぁ、いいか」
「な、何が?」
「お前に答える義理はねぇよ」
「未来のお姫様になんて口のききかたよー!」
「お前が姫とかいえるほどのもんか」
「な、なによー!」
気が済むまで踊ってやるよ。
誰の手の平の上か分からねぇが。
「そろそろ思い出して欲しいんだけど」
「お前こそ何がだよ」
「……何でもないわよ」
案外答えは近くに。
あるかもしれねぇからな。
+++++++++++
アタシは何を書いてるんだろう(特に幼稚園辺り)
いやぁ、妄想が膨らんで膨らんで。
その結果がこうなってしまいました、アハハ。
捏造しすぎですよね。自分でも分かってます。
outside最大の問題作になろうとしています(笑)
12/18 更新
自己満足の番外編はコチラになります。
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