寂しくない方法を。
そのとき、想ったの。




星空の涙とともに




今日こそは言いたいの。
だって誕生日でしょ?

クラスの雰囲気がそわそわしてて。
それはクリスマスが近いからじゃなく。
好きな人の誕生日が近いから。

私もその中の1人。
だって、好きなんだもの。
好き、なんだもの。


氷帝のテニス部だから。
準レギュラーのトップだから。
成績が学年でトップクラスだから。
お父様が古武術の師範でお金持ちだから。


氷帝学園は別名お坊ちゃま&お嬢様学校。
それを狙う女の子もたくさんいる。
その中にはもちろん、私は入っていないけど。


「日吉くん!お誕生日おめでとう!」


今日何度目かのその声が轟く。
その声にクラスの半分以上の女子の身体が
強張って、ジロリとその光景を睨む。


「……ああ」
「これ、受け取ってもらえる?」
「悪いけど、そういうの断ってるから」
「お願い!貰ってくれるだけで良いの!」
「悪いけど」


そう言って。
席を立って。
一瞥を女の子にくれてやると。


「気持ちのないヤツから貰っても、嬉しくないから」


女の子の横を通るときに。
そんな残酷な言葉を吐いて。
彼はそのまま教室を出る。

そしてお決まり。
その女の子も顔を隠して走って教室を出て行く。


12月5日。
日吉若の誕生日。
別名。



教室にダイヤモンドダストが吹く日。




「雨、降って来たー」


教室で日誌を書いてると。
コツコツと窓を叩いて。
その音に気付いて顔を上げると。
外は土砂降りと言っても過言じゃない雨。

ザァザァ音を立てて。
窓に近づいてみれば。
グラウンドでは急いで片付けてる1年生の姿。

……大変そう。
うわ、転んじゃったよ。
うひゃー、ドロドロだ……。
こういう雨ってなんて言うんだっけ?
えーと、えーと。


「バケツをひっくり返したような雨だな」
「あ、そう!それ!」


手を1度叩いて。
笑顔のまま振り向けば。
そこには。


「練習なくなったから、手伝う」


そう言って。
そのまま私がさっきまで座ってた席に座って。
何事もなく私のシャーペンでサラサラ書き始める。

心臓が止まったかと思った。
息が出来なくなったかと思った。
一瞬、全ての時間が止まって。
自分の身体が動かなくなったのを感じた。

頭の片隅では。
そういえば今日一緒の日直だったっけ?とか。
今更なこと冷静に考えてる自分が居て。

それでも。
身体は石のように動かなくて。


「?」


それはまるで。
魔法の声。

魔法で石にされた私を。
声一つで解いてしまう王子様。


「……あ、うん」


急に。
全ての時間が動きだした。
1番活動を露にしたのは心臓で。
大きな波を立てて動いている。

ドキドキ、ドキドキ。
止まない鼓動に。
聞こえるんじゃないかと緊張して。
中々近づけなくて。


「はもう書けたのか?」
「いや、まだなんだけど……」
「じゃあ書かないのか?」
「……書き、ます」


ドキドキ、ドキドキ。
さっきよりもスピードが上がった鼓動に。
余計に緊張して、緊張して。
口から心臓が飛び出るほど緊張して。

ねぇ。
好きなのは十分承知だから。
だから、お願い。
止んでよ、今だけで良いから。

早鐘のように鳴って私を狂わせないで。
日吉の前で格好悪い所なんて見せたくないから。
せめて。
せめて今年こそは。



ちゃんと、言いたいから。


「、調子悪いのか?」
「え、そんなことないけど……」
「何か、いつもと違うくないか?」


ゆっくり前の椅子を引いて。
音を立てないようにそこに座れば。
顔を上げた日吉の視線とバッチリ合う。

反則よ。
そんな顔しないで。
いかにも私を心配してるような目。
どうせなら、あの女の子達に向けるような。
あんな、残酷な瞳しててくれて欲しい。

だって。
ほら、また。
鼓動が高くなっていく。


「そんなことない、日吉の気のせいよ」
「そうか?」
「うん、そう」
「それなら、良いが」


シャーペンを一度クルリと回して。
何事もなかったようにまた顔を伏せて書き出す。
そのシャーペン誰のか分かってるの?
私の、なんだよ?

さすがというか。
字も綺麗で。
流れるようなその字にさえ。
愛しさが込み上げるような。


「日吉、今日は大変だったねー」
「……まぁな」
「去年も大変だったもんね、教室が寒かったよ」
「冬だから寒いのは当然だろ?」
「この教室、暖房完備なのに?」
「じゃあ何でだ?」


日吉が顔を上げる気配がして。
私は1度瞼を閉じて、視線を別へと移した。
外にはまだ土砂降りの雨。


「……何でもないよ」


止まないのかな。
今日実は傘持ってきてない。
でも日吉に格好悪い所見せたくないから言わない。

日吉と同じクラスになって2年目。
最初から日吉は有名で。
高校からの外部入学の私は。
高校から出来た友達から日吉の噂を聞いて。
何だか、目を追ってしまった。

テニスが上手で。
家柄も良くて。
それだけでもすごいのに。
その上勉強も出来るすごい人。

好きになられる要素をたくさん持ってて。
だから日吉を好きな女の子はたくさん居て。
当然のように何度も告白されたりしてて。

私はそういえば最初は好きじゃなかった。
ただの、すごい人で。
確かに目を惹く人だったけれど。
自分とは無縁の人だと。

去年の誕生日だったよね。
忘れ物して教室に取りに帰ったとき。
ああ、そういえば。
あの日も。
雨が降ってたね。

日吉が1人で教室に居て。
窓枠に手をついて。
何かを決心するかのように空を見上げて。
そっと、一筋の涙を流してた。

私はね。
そのとき。


「星が出てたら寂しくないのに」
「え?」
「そう思ったの」
「何を?」
「え?……私、口に出してた?」
「"星が出てたら寂しくないのに"って」


星が出てたら寂しくないのに。
今日みたいに空は真っ暗で。
雲に覆われて光の一筋も見えなくて。

そんな中で泣いてた日吉は。
孤独の影を背負っていて。
一人で泣いてるような気がして。


「あー、それはー……何でもない」
「さっきから多いな、それ」
「ホント、くだらないから」
「」


強くて鋭い。
その強靭な瞳が私を射て。
捕らえて、逸らさせない。

温かみを帯びたその手が。
私の手の上に乗って。
逃がさないようにと包み込む。


「なんだ?」
「ひ、よし……」


やけに雨音が耳に響くのは気のせい?
ぼうっと靄がかかった思考の隅で。
ザァザァとグラウンドを打つ雨音が。

意外にも。
心臓は早鐘を打たなくて。
これこそ石になってしまったというか。
身体の機能が急停止したというか。

そんな目で見ないで。
いかにも聞きたそうなその瞳。
普段はそんな顔しないでしょ?
何でも無関心のようにしてるクセに。

そんなによく喋る訳でもないけど。
日吉のことならいつも見てるから知ってるよ。
そんな顔、普段は絶対にしない。
感情を露にするなんて、日吉はしない。


「変だよ、日吉」
「変なのはの方だろ」


駆け引きのような言い合い。
どちらも引けない位置に立ってるようで。
前に進んでも、後ろに下がっても。
どちらかが先に後悔してしまいそうで。

微妙な位置に2人で立ってて。
2人で飛び込めば楽なのに。
どうしても、それが出来ない。

先に。
どちらかが飛び込まなければ。
私達は始まらないような気がして仕方がない。

それは。
日吉が、私だと言っているようで。


「なに?」
「……星が出てたら」
「ああ」
「空にいっぱいの星があって、
 それで雨が降れば……寂しくないのにって」
「え?」
「一人で泣くのは寂しいから……
 いっぱいの星があれば星も泣いてるみたいで寂しくない」
「……」
「……なぁんて!つまんないでしょ!?忘れて忘れてー!」
「忘れない」


重なる手が。
今度は繋ぐように下に潜りこんできて。
手の平と手の平が触れ合って。
繋ぐように日吉は私の手を握る。


「だって綺麗な星が出てる時に雨は降らないし」
「でも、はそう考えてくれるんだろ?」
「え?」
「去年見られたからだと思ったけど、違うのか?」
「知ってたの!?」


日吉がこっちを向く気配がして。
私はすぐ教室から走って逃げた。
だって。
見惚れてたなんて言えないもの。

横顔が鮮明だったの。
初めて『日吉若』という存在を。
色をつけて見え始めた瞬間で。

それから。
日吉を見ていく内に。
いつの間にか好きになってて。
でも、言えなくて。


「部活がちょっと上手くいかなくて、
 悔しくて教室に帰ってテニス見てたら、自然に泣けて」
「そう、だったの……」
「それから気になってた、ずっと」
「なにを?」
「のことが」


ねぇ。
どうして今日は。
そんな風に普段しない顔をするの?
そんな風に優しく笑んだりしない人でしょ?

そんなことされたら。
勘違い、しちゃうじゃない。
それとも。
私を先に飛び込ませる計算上の策略なの?

ずっと見てたけど。
日吉がこんな人だなんて知らなかった。
きっと、もっと、たくさん。
私が知らない日吉がいるのね。

好きだからかな。
もっと知りたいって思うのは。
こんなに穏やかな心音は。
日吉を好きになって初めてかもしれない。


「日吉」
「なんだ?」
「お誕生日、オメデトウ」
「……ああ、で?」
「日吉が、好きです」


今まではね。
綱渡りを1人で渡ってるようだったの。

だからドキドキ胸が高鳴って。
落ちるかもしれないから不安がって。
鳴り止まない鼓動に自分が嫌になって。

命綱がつけば。
これなら落ちても大丈夫だと。
こんなにもはっきりと。
貴方に好きだと告げられて。


「俺も、が好きだから」


そう告げて。
日吉はゆっくり私の手を引っ張って。
そっと唇を合わせる。

ねぇ。
こんなにも満ち足りた気分なんて初めて。
大好き。
日吉が、大好きだわ。




「あ、でもプレゼントない……」
「良いよ」
「え?」
「がプレゼントだろ?」


照れもしないで。
顔は不敵な笑顔さえ浮かべて。

今日は初めて日吉をたくさん見た。
明日は、どんな日吉が見れるんだろう。






+++++++++++
うがぁー!何だコレー!!
こんなんで満足して載せるなんて私はコレで良いのかぁー!!
時間がないとか理由にしちゃいけないなぁ、と思いました。
うわ、もう、こんな思いしたくねぇー。


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