「今日は寄り道して帰ろうよ」
俺らは手ぇ繋いで。
いつもの曲がり角を曲がらんと。
まっすぐ進んで知らん道を通ってみる。
もう少しだけ、待って?
自分が住んどる街やのに。
何処か知らない場所を歩いとる。
そんな気分や。
「あ!ココの家の花、綺麗だね〜」
そういえば跡部はあの曲がり角を曲がらんと、
この道まっすぐ進んどったっけ?
この辺は高級住宅地が並んどんねんなぁ。
どうでもええことを考えながら。
知らん道を通る俺の彼女の百面相を見守る。
「〜、走ったらころぶで〜?」
「大丈夫っ!私、そんなにドジじゃないし!!」
楽しそうに走る姿は。
高校生とは思えない程愛らしく見える。
いちいち俺の方見て「侑士〜」って名前呼ばれたら。
どうしようもなく想いが募るん知らんやろ?
「楽しいねぇ〜、侑士」
「ホンマやなぁ」
やっと落ち着いたは。
今度は俺の隣で手繋いで歩いとる。
手ぇから伝わってくるんは体温と気持ち。
手に取るようにがワクワクしてんの分かるわ。
例えるんなら。
そう、鳥のようや。
自由にどっかに飛んでいってしまいそうな。
不安に駆られることだってもちろんあるわ。
でも、他の鳥とちゃう所は。
ちゃんと俺の傍に帰ってきてくれるところや。
俺を止まり木にしてくれてるんやろか。
俺はそれでもええ。
帰ってきてくれるだけで嬉しいんや。
その愛くるしい笑顔は。
俺のもんやって自覚出来るから。
少しでも、長く。
の傍におれるんはホンマに気分がええ。
ほんまにこのままどっかに連れ去りたい気分やわ。
けど、にだけ嫌われるんは嫌なんや。
そんなんも気持ち知らんとはにこにこして周りを見渡しとる。
俺はの前では何も言えんヘタレなんやなぁ。
「あ、もしかしてココ……」
俺の手を2、3度引っ張って。
立ち止まるように要請し、と同じ方向を見る。
「……結婚式場ちゃうんか?」
「だよねっ!?」
高級住宅地が並ぶ道のりで。
赤、黄、緑の三色が彩る辺りの中で。
少しこじんまりとした結婚式場が建っとった。
いや、実際は大きいんかもしれんけど。
周りの家が無駄にでかいから小さく見えるだけかもしれん。
「……何か良いなぁ」
意識的が無意識か。
握る手に少し力が加わったんは。
その行動がもっと俺の胸の高鳴りを速める方法やって知っとう?
確信犯ちゃうかと思わせぶりな行為。
俺の心臓はに聞こえそうなほど、ドキドキで仕方がない。
「何がええんや?」
「……何か、素敵だと思わない?」
「どの辺が?」
「んもう、女心がわっかんないのね〜」
「俺が分かったら問題やろ?」
「うーん、まぁそうなんだけど……あったかい気がする」
「あったかい?」
「そう、周りがあんまり音がしないせいかな?
ココだけ別空間みたいに暖かくて、アットホームってカンジ?」
「あ、でも家じゃないか」と照れ笑いするを。
抱きしめた衝動を誰かに嘲笑われてしまってもかまへん。
愛しい。愛しすぎてかなわんわ。
ホンマに好きで好きで、仕方ないんよ。
どうしても抑えきれへん気持ち、どうにかして欲しいわ。
俺らの周りに落ち葉がちらほら落ちて。
結婚式場の別空間に溶け込むように。
俺らは無言で。
腕を背中に回してくれたをもっと強く抱きしめる。
「侑士……」
くぐもった声は俺の制服に吸い込まれて。
胸元付近で空気の振動を感じる。
俺のドキドキが少しでもに伝わったら。
「何や?」
少しとの距離を置いて。
けれど、腕の中に納めときたくて。
がようやく顔を上げられる位置を保つ。
「昔、私ね、学生結婚が夢だったんだよ?」
にへらと顔を緩ませて笑うんは。
俺にプロポーズしてくれと頼んどるようで。
してええんか?
の将来、俺が貰ってもええんか?
俺はを幸せにする自信はあるで。
世界中の誰よりも、幸せな花嫁さんにしてやってもええ。
と四六時中一緒に居れるなんて最高やん?
考えるだけで今度は俺がワクワクするわ。
「……さよか」
「でもその夢はお預けかな?」
「何でや?」
少しばかりの不安に駆られて。
視線を合わせれば。
は口角を上げて不敵に笑うと、
「私には忍足侑士って素敵な彼氏が居るからよ!」
は俺の腕からするりと逃げて。
照れたように少しばかり先を行く。
でも知っとるから。
俺ん所に帰ってきてくれること知っとるから。
だから安心して手放せるんや。
誰にも見せんようにするんは簡単やけど。
きっとそれはが望まんやろうから。
好きな人が幸せならホンマに自分も幸せなんやな。
俺は急いでの下へと急いだ。
待っといて。
いつか。
いつか絶対にゆうから。
その時はまたココへ。
暖かいこの結婚式場でバージンロード歩かせたるわ。
もう少し、待っといてな?
+++++++++++
忍足視点でした。
忍足視点って1番書きやすいのかも、うむ。
決まってる未来はこういう場合なら良いかもと思う。
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