街中で歩く見知る2人は。
きっと私が隣で歩くよりも。


ずっとずっと。
映えてるものだと分かった。




嗚呼、無情。




ぐすぐすぐす。


フラフラと意味もなく。
街を歩いてただけなのに。
出会ったのは衝撃が走るシーン。

ドラマではよくある。
彼氏が別の女と歩いてるシーン。
そして私も。
定番のように夜の公園で一人泣き。


嗚呼、情けない。
こんな所で一人で泣いてる自分が?
こんなにも景吾のことが好きな自分が?


「バカみたい……」


何度も景吾を信じて。
何度も景吾に裏切られて。
それでも離れられないほど恋してるの。
少しでも多く貴方の傍に居たいほど愛してるの。


私の気持ち分かってるでしょ?
どれほど好きか分かってるだろうに。
景吾は笑って。
伸ばした手を掠めては去っていく。

その掠めた行為に。
希望を何度持ってきたことか。
いつかは私だけを、なんて。



ぐすぐすぐす。



泣いても泣いても零れる涙が。
スカートに水玉模様を作っていく。
拭っても拭っても流れる気持ちが。
私の心に大きな穴をあけていく。


悲しいのか。
はたまた悔しいのか。
それとも。
やっぱり景吾が好きなのか。

後から後から流れてくる涙。
それを拭ってくれる存在が欲しい。


「?」


公園のブランコに座って。
キーコキーコ寂しそうに鳴かしていたら。
私の名を呼ぶ一つの存在。


「……どないしたん?」


コンビニの帰りなのか。
小さな袋を地面に置いて。
私の前なんかで跪いたりして。
覗き込むように私の顔色を伺う。


「……っ、おし、たりっ……ふっ」


近くに居るからいけないのよ?
私は今誰か傍に居て欲しいって。
願ったばかりなんだから。

手を伸ばして。
忍足の首に手をまわして。
そのまま地面に座り込んで。
抱きつく。


「……、スカート汚れんで?」


女に抱きつかれる慣れてるのか。
忍足の声色は冷静で。
それが逆に嬉しくて。
私はもっと腕に力を込める。


「いいっ……そん、なの……っ」
「さよか……」


そう言って。
私の背中に腕をまわしてくれて。
すっぽりを忍足の中におさまって。
妙に安心感を覚える。



求めていたものはこれなのかもしれなかった。




景吾との毎日は。
不安定で仕方がなくて。
一度考え出すと抜け出せない呪縛。
堂々巡りの結果に頭痛がして。

安心する日なんかなかった。
抱きしめられてる時も。
口付けされた時も。
身体を繋げてる時も。



平穏という字は景吾の下にはなかった。




「入ってええで」


忍足は一人暮らしらしく。
ワンルームの部屋にずかずか入っていく。
玄関には靴が散乱していて。
ドア側の隙間にきちんと揃えて上がった。

公園で泣き崩れてれば。
私の心の涙を流すように雨が降ってきて。
忍足はすぐさま立ち上がって。
私の手を引いて自分の家まで連れてきた。


「先、シャワー浴びるか?」


クローゼットから取り出したタオル2つ。
1つは自分の肩にかけてガシガシと拭き。
もう1つは私へと放り投げた。


「心配せんでも覗かんから安心しぃ」


いつもの冗談めいた笑顔でそう言って。
それがとてもとても嬉しくて。
私が微かに笑顔してるのも知らずに、
真ん中に置かれてるテレビをつけて。
どかっとソファに座り込む。


「……じゃあ、お先に」
「遠慮せんで入っといで」


1歩踏み出せば、キシ、と床が鳴って。
それに気付いた忍足はこっち向いて笑いながらそう言って。
私も微笑み返すと。
彼は少し寂しそうに目尻を下げた。




「お先ありがとー」
「あ、ええでええで」


脱衣所に出れば。
置いてあった服に袖を通して。
ブカブカのシャツにダボダボのズボン。


「これ、忍足の?」
「他に誰のがあんねんな」


手が出ないシャツに。
足が出ないズボン。
私、こんなの着たことない。
跡部の家に泊まったことなんてないし。
シャワー浴びるヒマなんてなかったな。


「脱衣所まで入ってきたんだ?やらしー」
「そんなんゆうたかて、着替えないと困るやろー?」


忍足が悠々と座るソファに。
私も隣に腰掛ければ。
頭の上から降ってくるのは軽いはたき。

忍足はテレビを付けながら。
映画情報誌に釘付けだったらしく。
私がもう何も言わないと分かったら、
そっちに視線を戻した。


「……おしたりぃー」
「なんや?」
「お風呂はいんないのー?」
「ん、まだええわ……」
「そっかぁー」


雑誌に目を向けて。
私も忍足の方を見ないで。
お互いの視線はまちまちなのに。
会話が出来る関係って素敵だわ。


私は必死だった。
景吾にこっちを見て貰いたくて。
視線を何とかこっちに向けて。
会話する意図を何かと理由つけて。

自分のものに出来ればどれだけ幸せか。
何度も何度もシュミレーションして。
その感覚に浸ってただけなのか。
嗚呼、情けない。


テレビが流れてるけど。
通っては抜けていって。
頭の中に入ってこない。


「……っ」


忍足に聞こえないように。
私は小さく呻いた。
忍足は雑誌に真剣だから。
きっと私が泣いてるのなんて気付かない。
こんな情けない私知られたくない。


静かに流れる一筋の涙を。
どうすることもなく。
ただ、流す。



だって悲しいのよ。
悲しい時は人間泣いて良いんでしょ?
こんなバカな女にもそんな権利くらいあるでしょ?



「……気付かんフリさせてぇな」


ふいに忍足が振り向いて。
糸が切れれば泣きそうなほど顔が歪んで。
私は。
もう片方の目から涙を流す。


「おし、たりぃ……」
「あかんわ、そんな顔反則やで……」


まるで隠すように。
私を忍足の胸に埋めて。
そのままソファの上で抱きしめる。



忍足の力強さに。
苦しいくらい締め付けられるのは心。



ありがとう。
こんな女なのに。
本当にありがとう。



彼は少し私を離して。
舌を出して、躊躇ったのか一度戻して。
でももう1度出して、頬を舐め上げる。
頬を伝う舌がひどく鮮明的で。
まるで恋をしたかと錯覚しそうで。



私の涙は上手く忍足の舌に乗った。



「なぁ、泣かんといて?」


そう言って頬に唇を落とす。
彼は絶対に私のそれには落とさない。
私が景吾の彼女だから。


恋ってなに?
愛ってなに?


当たり前のようで出てこなくて。
どの動物より脳が発達した人間なのに。




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後から後から頬を伝う涙を拭うのは。
下から下から這い上がってくる舌で。
何度も舐められて、きっと顔はドロドロ。

でも温かくて。
今まで生きてきた中で最高の温かさで。



涙が止まらないの。



「けぇ、ご……」
「跡部のことなんか忘れてまえ、俺がおるから」
「……っ」
「ずっと見てきたんや、ずっとずっと……」


辛そうに私の肩を掴むから。
寂しそうに瞳を少し潤ませるから。

忍足の頬にそっと両手を添えて。
そのまま近づいてくるのを受け止めた。


温かい。
いや、熱い。
想像もしなかった熱さに涙が絶えず流れた。


優しい。
何よりも、優しい。
まるでキスで忍足の優しさに包まれたみたいで。


唇が少し離れて。
うっすらと瞳を開けると忍足の笑顔。


コツンと額と額をくっつけて。
「笑い」と言われて少し微笑んで。


「話は俺がつけてきたる、少し待っててや」


彼は机の上に置いていた携帯を手にとって。
私をベッドの上に座らせて。
優しい微笑みを浮かべて部屋を後にした。

外は雨が降っていて。
それでも外で電話してくる忍足。
私への配慮が嬉しくて嬉しくて。


嗚呼、情けない。
さっき恋が終わったばかりじゃない。
景吾への想いに踏ん切りをつけたばかりじゃない。


フラれた人間は。
他人の優しさに非常に弱く。
そのまま身体を委ねてしまうことが多く。
私もそうなってしまうかもしれない。


でもそれはとても都合が良く。
私の都合でもう誰かが傷つくのは嫌だわ。


ガチャリ。
ドアが開いて。
入ってきたのはやはり忍足で。


「おかえり」
「……ただいま」


私達はただ微笑んだ。
これからの未来がどうなるかなんて考えなく。


嗚呼、情けない。
こんな恋を許して  ?



ただ思うのは。




嗚呼、無情。






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続き、ます。一応。
しかし不定期かな、多分。
振られた時につけこまれると恋と錯覚して。
失敗したことが、あっても、失敗は何度もしてしまう罠。


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