くだらない日常。
くだらない学校。
くだらない友達。
全部がくだらない。
いっそのこと、消えてしまおうか?
くだらない。
「……なんて、考えたことない?」
「激ダセェな、んなことねぇよ」
学校という安全な囲いに守られて、私達は生きている。
けれど、その学校さえ苦痛で。
私はどこへ行けば良いのか分からない。
ねぇ、全てがくだらないの。どうしたら良い?
「テニスってさ、楽しいの?」
くだらない質問だな、質問した後にそう思う。
雨。
私達は今日の日直だから放課後残って日記を書く作業をしている。
雨は嫌い。
だってテニス部の練習見れないでしょ?
でも好き。
こうやって宍戸が私に付き合ってくれるから。
矛盾した私の気持ち。
くだらないことだけど、
それを幸せに感じるの。
「ダセェな、楽しいに決まってるだろ!じゃねぇとやってねぇよ」
「……だよね、ゴメン、変なこと聞いて」
「ったく……"消えてしまおうか?"とか日誌に書くな、跡が残ったらどうすんだよ」
私が座ってる前の席に平然と座り、
机の上に置いていた鞄から筆箱を出した。
布で出来た質素なそれは私が誕生日にあげたもの。
それを見るたび顔が緩む。
「……何だよ?」
「何でもない」
「……変なヤツ」
人差し指で私の額をツンッとはじき、
それから消しゴムで強く私の字を消し始めた。
そんな何気ないことでも触れてもらえたのが
嬉しくて、もっと顔が緩む。
それを誤魔化すために私は窓に視線を向けた。
しとしとしと。
ゆっくりと雨は朝から降り続けている。
風もなく、外では雨だけが存在感を誇示している。
雨には存在意義がある。
それは一つじゃないからとても羨ましい。
私はどうして存在してるのだろう。
……うん、そうだ。そうだよね。
くだらない日常だけど、一つだけ違うものがある。
それだけキラキラをきらめいて、私の中で存在を誇示してる。
素敵だね。
こんな風に思えるなんて素敵だよね。
「、続き書かねぇのか?」
「あ、うん。ゴメンゴメン……感想、何にしよっかな……」
「またさっきみたいな激ダサなこと書くなよ?」
「分かってるよ!……じゃあ、宍戸先に書きなよ」
今まで持っていたシャーペンを日誌の上で転がす。
すると、その先にあった消しゴムに当たって動きを止める。
日誌の上には私のシャーペンと宍戸の消しゴムが並んでる。
ねぇ、こんなことでも嬉しいの。
私っておかしいのかな?
「こんなの今日思ったこと適当に書けば良いんだろ?」
「一日中テニスのこと考えてました、とか?」
「あ、良い考えだな!も今日考えてたことにしろよ」
そんな簡単に言わないでよ。
私が考えてることなんて一つだよ?
「今日考えてたこと、か……」
「のことだ、くだらねぇことでも考えてたんじゃねぇか?激ダセェぜ」
ごく自然に私のシャーペンを持ち、走らせる。
触れたシャーペンさえ羨ましくて。
くだらなくなんかないよ?
だって私の中で1番割合を占めてるもの。
「くだらなくなんか、ないよ」
「じゃあ聞かせろよ、俺が判断してやるから」
「……だって宍戸のことだもん」
しとしとしと。
静寂が包む教室の中に外の雨の音がよく響いた。
雨はこんな時にも存在を誇示するのね。
私は机の上に置いていた手を少し動かして消しゴムを握った。
宍戸の手には私のシャーペン、私の手には宍戸の消しゴム。
嬉しい。
こんなことでも嬉しくて仕方がないの。
「私、宍戸が好きなんだ」
嬉しいのに宍戸の顔が見れなくて。
柄にもなく緊張なんかしちゃったりして。
きっと宍戸も困ってる。
そんな気、一度も見せたことなかったから。
ねぇ、やっぱり宍戸にとったらこんなことくだらない?
宍戸はテニスだけが好き?
私のことなんて考えられないかな?
宍戸は手に持っていたシャーペンを置き、
静かに立ち上がって、前の机に置いてあった鞄を手に持った。
「……くだらない、よね」
宍戸が一歩踏み出すときに思わずそう呟いてしまった。
悲しいけど、私は情けない女じゃない。
この場で泣いてやったりしない。
それは宍戸がもっと困る結果になるのは分かってるから。
宍戸の足元だけ視線を追って。
教室を出る一歩前で足を止めた。
思わず顔を上げると、宍戸と目が合った。
「……くだらなくなんかねぇ!俺も好きだからな!!」
そう言って宍戸は廊下を駆け出した。
顔を真っ赤にした宍戸がすごく印象的で。
彼が言った言葉はすごく感動的で。
嬉しくて嬉しくて。
ふと、目線を下げると日誌があった。
"今日一日、のこと考えてた"
そう書かれた感想欄に少し笑ったりして。
男らしくて、少し焦った汚い字。
それさえも愛しいなんておかしいですか?
握り締めていた消しゴムを手放して。
自分のシャーペンを持ち、走らせた。
"今までずーっと宍戸のこと想ってました"
と。
筆箱に中にシャーペンと消しゴムをしまい、
日誌を閉め、教壇の上に置いて嬉しくて笑みをこぼす。
明日消しゴムを返す時に言おう。
付き合ってください、って。
外は雲の間から光が差していた。
もうすぐ晴れるね、また宍戸のテニスを見られるね。
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彼氏にしたいナンバーワン候補の宍戸さんです。
さりげなく言ってくれる人も良いけれど、
やっぱり照れながら言われたらたまらないと思います。
雨の日がほんの少し好きになれた日の出来事でした。
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