今日もこない。
貴方からの電話はこない。
ねぇ、私達はもうおしまいなの?
胸が張り裂けそうな程好きなのに……


どうして、伝えられないんだろう。




CALL ME




氷帝学園は金持ち学校と名高い高校。
そこでテニスを始め、今は鳳長太郎くんと言うパートナーも出来た。
高3の今になっても止めないで、彼女をほったらかしでテニスばかりしてる。

会いたい。
もっと傍に居て欲しい。
……だけど、彼のテニスしてる姿見たら言えなくて。


「亮、好き……」


机の上に飾ってある2人で映った写真の亮の額をつつく。
そこに映った2人はまるで今の私達とは違うように笑ってる。
あの頃は楽しかった、なんて年寄り染みたこと言ってみたりなんてして。

でもあの頃は本当に楽しかったの。
ただ一緒に居る時間が楽しくて。


「もっと、一緒に居たいよ……」


今はもう変えてしまった携帯。
鳴るはずもない彼からの電話を待っているの。
もしも奇跡が起きたら。


……その時は。


「ふわぁ〜あ」
「ってば寝不足ぅ?ダメよ、お肌の大敵っ!」
「一応化粧でゴマかしてんだけど……バレバレ?」
「顔では分かんなくてもアンタ朝から何回あくびしたと思ってんの?」
「いちいち数えてないよ、そんなの……」
「数えられないくらいしてんのよ、こっちまであくびがうつりそうよ……」
「じゃあ次の時間一緒にフける?」
「やーよ、私はアンタと違って品行方正なの、お分かり?」
「ハイハイ、じゃあ私1人でサボりますよーっだ!」


親友のと会話すんのも何だか面倒になって。
席を立ち、教室を出て行く。
後ろからが私を呼ぶ声が聴こえたけど。
それも何だか面倒で無視してしまった。


別に嫌いな訳じゃないんだけど。
今は1人が良いんだ。


「ふわぁ〜あぁ」


眠い。
結局また朝方まで携帯を眺めていた。


来るはずのない電話を待ち。
ディスプレイに彼の名が刻まれるのを待ち。
限りなく我侭な私なんてもう想ってもないかもしれない。

だけど、追いかけてきて欲しい。
私の勝手な言い分でしかないけれど。
私が欲しいなら追いかけてきて。
捕まえておきたいなら……追いかけてきて。

携帯を何度もチェックしながら私は裏庭に足を運んだ。
中等部と高等部を繋ぐちょっとした森みたいになった場所。
ココは最高の隠れ家でもある。
ちなみに薄気味悪いから大抵の人は別の場所でサボるんだけど。
でも春になると満開に桜が咲くのよ?


「あ、居た……」


先客。
ベンチの上に寝っ転がってぐーすか寝てるいつもの人。


「ジロちゃんは幸せそうで羨ましいなぁ〜」


ベンチには座らず、座る所を背もたれにして地面に座った。
さぁっと爽やかな風が吹いてきて、思わず目を瞑ってしまった。
瞑った先には必ず彼の笑った顔があるというのに。


「ジロちゃん、寝ながらで良いから聞いててね〜?」
「……」
「亮、ちゃんと部活行ってる?」
「……」
「一昨日ね、亮が学校から帰ってしばらくして学校に呼び出したの。
 そしたら来てくれたんだ、うん、学校まで走って」
「……」
「嬉しかったのに……でもどうしても信じられなくて。
 "別れよう"なんて言っちゃったの」
「……」
「その帰りに携帯変えて、番号変えて……連絡取れないようにした」
「……」
「でもね、何度もディスプレイ確認しちゃうの。
 来るはずのない亮の電話、待ってるの」
「……」
「土日はテニスの練習で、一緒に居れるのは昼休み。
 その昼休みさえテニスに裂かれることだってある……」
「……」
「ジロちゃんや長太郎くんの彼女は納得してるの?
 ……私は、ずっと亮には傍に居て欲しいの……」
「……」
「でもそれは私の我侭だから。
 そんなこと亮に伝えることは出来ない……」
「……」
「……その時点で、私達、彼氏彼女じゃなかったのかな……」


「……そんなことはないと思うけど〜?」


「ジ、ジロちゃんっ!?」
「俺の彼女はねっ、確かに不満もあるって言ってるけど
 何より好きって言ってくれるよ!」
「好き……?」
「そっ!逆に部活に出なさいって怒られることもあるC〜……
 俺って寝てばっかでしょ?
 だから1回俺と一緒に居て楽しいか聞いたら……
 好きだから、テニスしてる姿もって」
「……強いね、ジロちゃんの彼女」
「そぉ〜?すぐ泣くけどね〜」
「そこが可愛くて好きなクセに!」
「ははっ、バレちゃあしょうがない〜!
 この前ね、に嫉妬してたよ〜」
「私に?何で?」
「一緒に授業サボること多いからって、かわEよね〜v」


普段は眠そうなのに彼女の話になると楽しそうに起きてる。
よっぽど好きなのが私にも伝わる……


正直、羨ましくて仕方ないよ。


「それにね、しし―――――」
「ジロちゃん先輩ッ!!」


ジロちゃんが何か言いかけた時。
背後からジロちゃんを呼ぶ声が聞こえて振り返ると……


「あ、あの……」
「ゴメン、お邪魔虫は私だね」


可愛らしい女の子が遠慮がちに何か言いかけたので、
私はすっと立って「またね」とジロちゃんに手を振ってその場を後にした。
何か言いかけたままだったけど、これ以上彼女の自慢聞いてられないってね。
あの子は彼氏のために授業をサボって一緒に居る……すごいよね。


……私も、そこまで彼に気持ちを伝えれば良かったんだろうか?


顔を見ると余計に素直になれなくて。
"おはよう"や"おやすみ"のメールをするだけで何故だか緊張して。
ディスプレイに彼の電話番号を表示させて通話を押す勇気さえも出なくて。


バカだよね。
素直にならなきゃいけない時になれないなんて。


……悔しくて、涙が出てきた。


「せんせぇ〜、しんどいから寝かせて〜」
「ハイハイ、今から先生出張だから空いてるベッドで寝てなさいっ」


余程忙しかったのかそれだけ言って大急ぎで保健室から荷物を持って出て行った。
……先生が廊下を走って良いのか。
……って小学生じゃあるまいしね。
保健室を覗くと、1番奥のベッドが埋まってるみたい。

……お?おお?
カーテンの下から見えるのは3年の学年色の靴……。
知り合い、かな?
……ちょーっと覗いてみたりなんかして……
私も眠いけど、めったに寝顔なんて見れないし……


からかって1週間昼飯奢りとか?


「失礼しまーす……」


カラカラと静かに真っ白なカーテンを開けると、ぶわっとカーテンが舞った。
どうやら窓が開いていて、夏風が保健室に吹き込んだみたい。


「わっ」


カーテンに視界を覆われて、思わず大声を上げてしまった。


真っ白な世界。


私1人。


孤独な世界。


「ん……」


風が止んで、ふわふわとカーテンは定位置にゆっくり戻っていく。
すっかり開いてしまったカーテンの先に見えたのは……


「……?」


紛れもない、亮の姿だった。
寝ぼけ眼だった亮の瞳が大きく見開かれ、急いで上半身を起こした。
私は、しばらくその場から動けなかった。


「、お前……」


ゆっくりと伸ばされた腕を目で追うと、私の腕を掴んだ。
掴まれた腕が心臓みたいにドキドキと熱くなっていく。


……久しぶりの亮の手。


「りょ、う……」


やっと出た言葉は貴方の名前だった。
驚いたのはお互いで、亮は離さないと言わんばかりに強く腕を握る。
テニスをして出来た肉刺が掴んだ腕に当たって、逆に心地よい。


「……激ダサだな、俺」
「え……?」
「長太郎かジロー辺りにでも聞いたんだろ?寝てなくて倒れたって」
「りょ、う……」
「……眠れねぇんだよ、お前からの電話待ってたら……」
「でん、わ……?」
「何度も何度もかけようとして。
 でも出てくれねぇかもしんねぇって考えたら……」
「……かけれなかった?」
「あぁ……」


掴んだ腕に力がこもる。
何かを堪えるように。

……苦しんでるのは私だけじゃない?
貴方も苦しんでたの?
同じように電話に向かって"かかって"とお願いした?
亮の部屋に無理やり飾らせた写真を見て私を思い出した?


……そして、私のことまだ好きでいてくれたの?


「亮、私ね、貴方が好きなの……」
「……」
「でも追いかけてくれなきゃ嫌なの……」
「……」
「不満、言っても良い?」
「あぁ……」
「ずっと一緒に居たいの、いつでも傍に居たいの、貴方の隣に居たいの」
「……」
「でも、亮のテニスしてる姿見たら。
 楽しそうで何も言えなくなっちゃうの」
「……」
「私、亮がテニスしてる姿も好きよ?
 ……でも、私の隣で笑ってる亮の方が好きなの」
「……あぁ」
「もし亮がテニスと私のどっちを取るかってなった時。
 ……選ばれないのが怖かった」
「……」
「追いかけてきて欲しかった。
 我侭だった分かってたけど止められなかっ……た」


最後には我慢していた涙がつつーっと頬を伝って、床に落ちた。
やっと言えた、素直な気持ち。
私は貴方の1番でありたいという気持ち。
掴んだ腕を引っ張って、亮は私をベッドの近くに引き寄せた。


「……」
「電話ね、私も待ってた。
 来るはずのない電話待ってた……」
「来るはずの、ない?」
「……電話番号変えちゃったんだ。
 あの日の帰りすぐショップ寄って番号変えしたの」
「ま、まじかよ?」
「うん、それでも亮から電話かかってきたら素直に言おうと思ってた。
 ……追いかけてきてくれたから」
「……じゃあかけなくて正解だったんだな」
「何で?」
「かけた先が留守伝のオバさんだったらマジヘコんで、追えるかってーの」


亮が言いたいのは

『お客様がおかけになった番号は現在使われておりません』

っていう声の主らしい。
いや、確かにそうだけどさ、失礼にも程があるんじゃ……


でも亮らしいよね。


「激ダサだね」
「お前に見られたら余計にな」
「……どうする?仲直りする?」
「そうしてぇのは山々だが……
 俺はこれからもテニスを優先しちまうかもしんねぇ」
「うん……」
「でも、変えるところはあるだろ?」
「……なに?」


「座れよ」と近くに置いてあった椅子を引っ張って私を座るように促す。
さっきから同じ場所を掴んでた手が離れ、今度は私の手を握る。
分かってるクセにずるい。


……でも亮の口から聞いたら出来るよ、私。


「一緒に帰る、とか」
「まぁ、それは当然だよね」
「……家帰ったら電話する、とか」
「土日の練習の後もして欲しいなぁー」
「じゃあ、する」
「……他は?」
「……ろよ」
「え?」
「だからっ、黙って俺を好きでいろよって言ってんだろっ!!」


突然のことで目を見開いて亮を凝視してしまった。
亮はというと顔を逸らし、真っ赤にしてる。


……可愛いなんて思ってしまうのは不謹慎?


「好き、亮が大好き」
「……照れるな、こーゆーの」
「ジロちゃんや長太郎くんなら素直に返してくれそうなのに……」
「俺はアイツらとは違うだろ」
「そんな亮でも大好きなんだもん」


フフ、と笑って亮の手を握り返すとまた顔を赤くして逸らした。


可愛い可愛い宍戸亮くん。


ずっとこの手を離さないでね?





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画像が使いたいために少し古いのを引っ張り出してきてみた。
昔から彼氏候補ナンバー1だったようです(笑)


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