現代社会の必需品、コンビニ。
社会人、主婦、学生などの色々な世代の人達が通う場所。
ほとんどの生活の実用品が置いてあって。
気軽に入れる素敵な場所でもある。
今日、私はそんなコンビニの前である人を待っている。


いつもココを通る、部活帰りのあの人を。




コンビニ




「まだかなぁ……」


携帯で時刻を確かめて。
また読んでいる雑誌へと目を落とす。
雑誌なんてあの人を待つ暇つぶしでしかなくて。
正直ほとんど読んでいない。

もう辺りは真っ暗で。
きっと外に出るとコンビニの光が眩しいくらいなんだろうな。
雑誌を見つつ、外を見つつ。
そんなことを繰り返していたら何だか首が疲れてきた。
ずっと本を持ってて腕も疲れてきたし……



今日はもしかしたら通らないのかもしれない。



なんて考えが横切って。
ふるふると頭を振った。

今日もテニス部の練習あったの見たもん、通るハズ。
いや、帰りに鳳くんとかと遊んで帰っちゃったのかも。
んー、嫌な考えばっか浮かぶよーっ!

そんなことを考えていて。
いつ間にか瞑っていた目を開けると。
目の前をゆっくりと横切るあの人の姿が。
私は急いで本を元の場所に閉まって、コンビニを出て叫んだ。


「宍戸っ!」
「……?」


振り返った宍戸は訝しげな顔をして私の名前を呼んだ。
私は必死で叫んでしまったことを後悔しながら、
トボトボと宍戸に向かって歩き出した。


「ぐ、偶然だね……部活帰り?」
「あぁ、まぁな……お前は?」
「あー……コンビニ帰り?」
「そうか」


氷帝テニス部正レギュラー、宍戸亮。
去年から同じクラスで、
初めての席替えで席が前後になってから仲が良い。

それから色々話するようになって、
私はいつの間にかこの目の前の男が好きになっていた。
唯一好きになれなかったロングの髪の毛を切って、
私はもっと好きになった。
女として私より髪が綺麗ってのも許せなかったし……
ってこれは置いといて。


負けず嫌いな所も、からかうとすぐ照れる所も……
全部好きになってたの。


だからテニス部が終わる時間、
大抵はこの時間にコンビニに居る。
毎日会うと不自然だから何日か声を掛けないで見つめるだけにしてる。



毎日教室でも会ってるのに変なカンジだった思うかもしれないけど、
私は少しでも長く宍戸に会っていたいのよね。



「お前、このコンビニ好きだよな」
「な、なんで……?」
「いつも俺が帰る時間居るじゃねぇか、昨日だって雑誌読んでたろ?」
「見て、たの……?」
「あ、あぁ、目に入ったんだよっ」


気が付かなかった。
見てるのはいつも私だけだと思ってた。


嬉しい。
私の知らない所で宍戸が私を見てくれてるなんて。
その時間は私のこと考えてくれてるのよね?



……そう考えて良いのよね?



「宍戸、今ヒマ?」
「まぁ、ヒマと言えばヒマだけど……」
「じゃあさ、公園でアイスでも食べてかない?おごるよ!」
「ホントか?暑いからな、最近……寄ってくぜ」
「じゃあコンビニ入ろっか」


自分を叱咤して、
宍戸の手を自分から握った。
顔は恥ずかしくて見れないから、
私は宍戸を引っ張ってコンビニの中へ入った。


初めて2人で入るコンビニ。
……何だか嬉しくって顔が真っ赤になりそう。


「お、アイス!」


そんなことを考えてたら。
今度は宍戸が私を引っ張ってアイスコーナーまで走った。
宍戸は先に走ったのに私の手を放さない。
……それどころか今度は手を繋いでいる。


アイスに夢中での出来事か。
……それとも、期待しても良いの?


「やっぱアイスっつったらチョコだよな」
「宍戸ってば意外と甘いモノ好き?」
「意外ってのは余計だ……男が甘いの好きなんて激ダサかよ?」
「そんなこと言ってないよっ!そんな宍戸も可愛いなぁ、なんて思って」
「おっ、男に可愛いなんて言うなっ!!」


あーあ、怒っちゃった。
……でもコレが宍戸が照れてる証拠。
帽子被って俯いちゃってるから分からないけど、顔は絶対に真っ赤。

その証拠に。
アイスを取っては戻し、取っては戻し繰る返してること。
宍戸が好きなアイスはチョコアイスなのに、
バニラとかストロベリーとか取って迷ってる振りしてる。


そんなところが改めて。


「好きだなぁ……」
「は……?」
「えっ?……あっ、いやっ、そのっ……アイス、がね」
「あ、あぁ……だよな」


つい口を滑らせてしまった。
きっと私の中の気持ちが言いたくて言いたくて暴走寸前なんだろうな。
やっと伝えるチャンスが訪れたのに、自分から手放しちゃった。


……宍戸は私のことどう思ってるんだろう。
聞きたくても聞けない、ジレンマの嵐。
それさえ分かれば私から告白するのに。
もう仲良くなれないことを恐れて、気持ちを伝えることを拒否している私。



本当は手を繋いで一緒に歩きたい。
いつも隣に居て良い存在になりたい……。



「……?」
「えっ?あ、決まった……?」
「あぁ、お前は?」
「私?んー……じゃあ、これにしよっかな」


宍戸が取ったアイスと同じ種類のストロベリー味。
甘くて、少し酸っぱいストロベリー。



……何だか私の宍戸に対しての気持ちみたいだね。



「これか?じゃあ貸せ」
「へ?」
「貸せって、おごるから」
「え?でも私がおごる約束じゃ……」
「お前におごらせるなんて出来るかっ!良いから貸せよ」
「……ハイ」
「じゃあ外で待ってろ、1人で先に公園行くなよ」
「うん、分かった」



……感動、かも。



どうしようもなく嬉しくて、きっと私の顔今真っ赤だよ。
思わずレジに向かう宍戸の背中に抱きつきたくなる
衝動を抑えて、真っ直ぐ出口へと向かう。

中と外の気温差はかなり違うはずなのに
私の体温は上がりも下がりもしない。
胸のドキドキが治まらなくて、
私はコンビニ前の段差に座り込んで顔を伏せた。



"もしかして"



なんて期待が消えなくて。
「言ってしまおうか」て自分が背中を押す。


好きなの宍戸。
貴方のことが大好きなの。
宍戸のこと見ない日なんてなくて、考えない日なんてなくて、
いつも張り裂けそうな想いを伝えたくて仕方がないの。



……ねぇ?もう良いでしょ?



「か〜のじょっ、こんな時間に1人で何やってんの?」
「ヒマならさっ、一緒にこれからあそばな〜い?」


どっかでナンパやってる。
……確かにもう9時近くだもんね、
そーゆー男が動き出す時間よね。
でも私は今それどころじゃなくって、 宍戸で頭の中いっぱいなのよ〜。


「お〜い、聞いてる……?」
「え?……私?」
「そそ、キミ!他に誰も居ないし、ね」


そういえば中には居ても外には私1人。
……思いっきり私狙いって訳か。
はぁ、今あんたら相手してるヒマないんだけど。



……宍戸来る前に―――



「に何か用かよ?」


って後ろに居たのね。
コンビニでもらったビニール袋の中に
アイスが2つちゃんと入ってるみたい。


「あれ?彼氏待ちだったの?」
「え、いや、彼氏じゃ―――」
「彼氏だよ」



え?……宍戸、今何て言ったの……?



「じゃあ仕方ねぇな、他行こうぜ」
「あぁ」


何だか軽めのナンパだったみたいで、
2人組の男はさっさとその場から立ち去った。
でも私はそれどころじゃなくて、
顔はまた真っ赤になっていくのが分かる。



ダメだ、もう言わなきゃ、
私の気持ち伝えてしまいたいの!



「宍戸、私ね―――」
「っ」
「……なに?」
「公園、行こうぜ」


言いかけた言葉を突然遮られて、
宍戸は私の方を見ないで先に歩き出してしまう。
そして私も置いて行かれるのが嫌で、
宍戸の後を一定な距離を保って無言で歩き出した。

私が言いかけたこと分かったのかな?
好きだって気持ち。
……困るから言わなくさせた?

宍戸はそんなヤツじゃないって頭では分かってるのに
心が握りつぶされそうに痛い。



何だか全部が嫌になって私は走り出した。
宍戸に何も言わずにさっきまで居たコンビニ方向に。
でも足音で分かったのか、
いつの間にか二重の走る足音が聞こえてきて私はもっと全速力で逃げた。


これ以上期待させる態度取らないで、
好きじゃないなら好きじゃないってハッキリ私に言って。
嫌われたくないの、だから友達でも良いと思ってたのに……。


「っ!!」


宍戸の大声が辺り一帯に響いて、
私の胸を高鳴らせる。
そして。
私は電灯の真下で宍戸に腕を捕まえられて逃げられなくなってしまった。


「はぁはぁ」と肩で息する宍戸の姿……
それさえも愛しいなんてどうすれば良いの?


「しし、ど……」
「お前、なん、で……はぁ、走るんだよ……」
「ご、めん……」
「公園、行くんじゃ、なかった、のか……?」
「好き、なの……」
「あ……?」
「宍戸、が、好き……なの……」


宍戸の問いかけに答えてるヒマはない。
伝えたいの……
それさえも奪わないで欲しいの。


嫌われたくない。
だけど伝えたいの……
私の気持ち全部伝えたいの……。


「照れてる宍戸も、さりげなく優しい宍戸も、
 怒りやすい宍戸も……全部好きなの……」
「……」
「宍戸は、言わせたくなかったんでしょ?
 ……でも、これぐらいは許して……ごめんね」
「言わせたくなかった……だと?」
「だって、さっき言葉遮って……」
「あれはっ、お前に彼氏っての否定されたくなかったからで……」
「え……?」
「……んだよっ」
「な、なに……?」
「……俺も、のこと好きなんだよっ!2度も言わせんなっ!」


そう言った宍戸の顔は真っ赤で、
きっと私の顔も真っ赤。
帽子を深く被って隠そうとしてるけど、
もうとっくにバレてるよ?


「可愛い」
「……あ?」
「宍戸、可愛いよ」
「だからっ、男がんなこと言われても―――」


相手の唇にあたった瞬間、
私のそれも微かに震えた。
ファーストキスが自分からなんて笑っちゃう、
でもしたいって思ったんだ。

もう自分の気持ちに嘘つかない、
素直に生きるって決めたんだ。
突然のことに目をパチクリ開けた宍戸と目があって、
にこっと笑うと肩をつかまれて離された。


「っ、おまっ」
「宍戸、好き、だぁ〜いすきっ!」


たまには積極的でも良いよね?
私はそう言って、
宍戸の背中に手を回して抱きついた。
顔を胸に埋めると宍戸の心臓の音がトクントクンと鳴る。
……いつもより早いかな?

そんなことさえ愛しくて、
もっと強く抱きしめると宍戸も私を抱きしめてくれた。
おどおどして触れたのが分かってホント可愛い……




ん?




スカートの辺りに何かあたってる……?



濡れ、てるような……
いや、ようなじゃなくて濡れてる……



冷たいっ!



何も言わずにバッと宍戸から離れて、
スカートを見ると一部分がグッショリ濡れてる。
いきなり離れられた宍戸は驚いた顔してたけど、
それ所じゃなくて……視線は、宍戸の持ってるモノ。


「宍戸、アイス……」
「は?……あ。」


ポタポタと滴が落ち、
地面にも染みを作る。
見るも無残に溶けてしまったアイスがコンビニで
もらった袋の中で電灯に照らされててらてら光ってる。
2人して口をぽかんと開けてたけど、
しばらくして笑いがこみ上げてきて2人して一緒に笑った。
そしてどちらからともなく手を繋いで、コンビニの方に足が向いた。


「もう1回買いに行くか?」
「うんっ!また宍戸のおごり?」
「ふざけろ、1回きりに決まってんだろ」
「えー!ケチー!!」


素直に気持ちを伝えるのって気持ちいいね、
そしてその相手が宍戸がいうことが溜まらなく嬉しい。


ずっと隣で私の話を聞いていてね、
そして宍戸の話も聞かせてね。






+++++++++++
氷帝更新ばっかりですいません(笑)
他ネタも書きたいのですが、先に書きかけ消化してます……!
ちょっと古いので話の書き方が大分違いますね、アハハ〜。


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