「もう知らないっ」
俺達はお互い少し意地っ張りで。
少し意見が分かれるといつもつまらないケンカをする。
こんなの激ダセェって自分でも分かってんだけど。
がつっかかってくると、つい、な。
弁解しようにもそれがダセェ気がして。
言い訳染みたことしか言えない気がして。
気持ちを言葉にすれば嘘臭くなる気がして。
俺達の仲直りはいつも少し大変だったりする。
それでも。
それでも、な。
と一緒にいてぇって気持ちは不思議を変わらねぇんだ。
いつもこうやってケンカをするのに。
俺は絶対に別れたいとは思わない。
それは。
俺がを必要としているから。
言葉に出来ない恋を、にしているから。
言葉に出来ない恋 前
「……ハヨ」
「……おはよう」
例えばこんな風に。
昨夜のこと、まだ少し怒ってるのに。
律儀にもこうやって挨拶をしてくるところ。
昨日のケンカと言っても。
貸すと約束していた漫画を、先にジローに渡しちまって。
それを素直に話すと、は文句を言って走って帰ってしまった。
本当につまらなくて。
本当に些細な出来事で。
どっかの奴等が聞いたら、きっとまた笑う。
「お前ら、またケンカしたのかよ?」
「ホンマ気ぃ合わへんねんな〜」
毎度のことを楽しんでいるかのように。
最悪なタイミングで来やがった、コイツら2人。
「そろそろ潮時ちゃう?」
「お、侑士、賭けるかっ?」
「ええで、何日?」
「俺は3日だな、侑士は?」
「……ヨリ戻す」
「は?」
「ケンカするほど仲がええってな、コイツらのためにあるような名言や」
「そんなんずりぃぞ!」
「ずるないやん、じゃあ3日やなくて別れるか別れへんかで賭けるか?」
「……それも何か不公平な気がする……」
「岳人もなんやかんやでコイツら続くて思てんのやな」
「……本当に、そう思うか?」
2人の漫才に急に口を挟んだ俺を、
意外だ、という眼差しが頭上を刺す。
「……どういう意味だよ?」
「まさか、今回は本気でヤバいん?」
「そうじゃねぇけど……」
こうやってケンカする度に思う。
俺は確かにが好きだけれど。
いつか、こんな些細なケンカをする俺よりも、
もっと気の合うヤツの元へと走るんじゃねぇかって。
は俺にはもったいねぇ。
最近は跡部や忍足が気にかける程、綺麗になったし。
勝気な性格で、よく人と対立するけれど。
自分の意見はきちんと言い、納得すればそれを認める。
友達は大切にするし、優しいとか楽しいとかで評判もある。
俺らが付き合い始めた夏からもう半年以上経つ。
それでも未だにこんな調子。
2週間に1度はケンカし、忍足や向日の笑いモノ。
「好き」だとか「愛してる」だとか。
いつでも気軽に言えれば良いのに。
もっと器用に人と付き合えれば良いのに。
人を羨んでも仕方ねぇけど、こんな時は跡部やジローになりてぇ。
「別れるんやったら後は任せてええで?」
「またかよ〜、侑士……」
「最近ちゃん綺麗やねんもん、付き合いたいなぁ、思て」
「……そんなことより、俺で良かったら相談乗るぜ?」
「アホ、岳人なんか相談相手になるわけないやろ?」
「アホってなんだよ!侑士のバカ!!」
「あ、ちょい待ちぃな!……じゃあな、宍戸!」
「お前ら何しに来たんだよ……」
「岳人〜、ゴメンて〜!」
アホ呼ばわりで怒った向日が俺のクラスを出て行き、
それを謝りながら出て行く忍足。
忍足も少し羨ましい。
ああやって素直に謝れるところ、だけ。
俺はいつも、仕方ねぇだろって言葉で片付けてしまう。
そうするとは怒って俺に噛み付く。
俺も学習力がない。
そう言えばが怒るのは分かっているのに。
ついムキになって「仕方ない」だとか「しょうがない」だとか
それ以上言うなという気持ちがこもった言い方になってしまう。
自分の悪いクセだと自覚していても、やはり中々直すことが出来ない。
こうやってケンカする度にそう思う。
頭の片隅で少しこんな関係に疲れたとか感じてる自分が居る。
俺が想うということは、はもっと前から感じてるんじゃないだろうか。
やはり、別れた方が得策なんじゃないかって。
1番前の席に座って友達と話すを見て、そう思った。
ケンカをしていない時は大抵はと食べるけど、
今日は朝の挨拶以来気まずくて休み時間ごとに俺は教室を出た。
昼休みはなんとなく行き場がなくて、
人波に流されるように学食へと辿り着いた。
「……アレ?宍戸さんが学食なんて珍しいですね」
「長太郎……お前も学食か?」
頭上から聞きなれた声が降り注いで、
急いで顔を上げると、見慣れた顔がそこにある。
「俺は大体そうですよ、この後部室で食うんです」
「……俺も一緒して良いか?」
俺らしくない態度だ、と長太郎も気付いたんだろう。
軽く目を見開いて、その後軽く微笑して。
「良いですよ、ちょっと待っててください」
「え?」
「ハイ、これは宍戸さんの分ですから」
「あ、おい!長太郎……!」
自分の分だろう紙袋を俺に手渡して、
パンを買う人込みの群れの中に入っていった。
一際高い身長は離れたココからでもしっかりと確認出来て、
誰よりも早く注文し、目的のパンを買って、さっさと戻ってきた。
俺も決して身長は低くはない方だが、
長太郎と一緒に居ると、いろんな意味で自分が小さい気がする。
「お待たせしてすいません!」
「いや、……いつ見てもすげぇわ、お前」
「え?何がですか?」
「いや、何でもねぇ」
貰った紙袋の中身のパンを見て。
値段の計算をしながら、部室へと急いだ。
「今日は誰もコート使わないみたいですね」
たまに部室で忍足さんとか食べてるんですよ、と。
レギュラー専用の部室の鍵で開けながらそう言った。
毎日のように通うそこは部活が休みの水曜日に
跡部の家のハウスキーパーが掃除をするので、埃っぽくはならない。
冷暖房も完備で、機械染みた空気が俺には少し合わない。
掃除をしたばかりの部室へと入って。
すぐある椅子へと腰掛けた。
「……で、何かあったんですか?」
ワザと俺から視線を逸らして。
パンの袋を開けながら、何気なく聞いてきた。
激ダサだな、ホントに俺って。
自分がダサい気がするから誰にも言えなくて。
だからってモヤモヤが晴れる訳でもなくて、悩みが募って。
どうしようもなくなって、後輩に頼って。
そして、悟られてる、俺。
激ダサ。
ありえねぇくらい激ダサ。
どうして自分はこうなんだ。
後悔することしか出来ない。
どっちにしろダサいのは結果的に見えてるのに。
それでも一歩が踏み出せなくて、また後悔する。
本当に学習力がない。
こんなのサルでも分かんぞ、きっと。
俺はそのサル並のことが出来なくて、胸が痛む。
この言葉に出来ない想いをどこにやれば良いか分からない。
「……何でもねぇ」
「そうですか」
「何でも……」
「……」
口篭もるのはある証拠だと自分でも分かっているが、
それ以上の言葉がどうしても出てこない。
何度目かの溜息を吐いて、上半身を机に突っ伏させた。
食欲はもうない。
何も考えずに、眠ってしまいたかった。
このまま意識をなくしてしまいたかった。
「宍戸さん、今日の放課後予定ありますか?」
今度は顔を上げなかった。
上げる気にはなれなくて、頬を机に擦りつけながら首を振った。
「じゃあテニスコートに行きましょう、少しは気が晴れますよ」
靄が張ったかように長太郎の声が遠い。
まるで寝る前に声を掛けられたかのように。
脳ははっきりしているが、身体が上手く動かない。
自分が頷いたかも分からずに、予鈴が鳴るまでそのままの体勢で居た。
「帰ら、ないの?」
午後の授業もぼーっと過ごし、
帰る用意でもしようかと鞄を取った時、そう問われた。
「……今日は用事がある、から」
「そっか……じゃあ帰るっ」
せっかくから話しかけてくれたのに。
俺達は変によそよそしい会話をして。
終わったな、と頭の片隅でそう呟いた。
ばたばたと騒がしくが走って行く音が頭に響く。
「いつッ……」
頭が割れるかのように激しく痛む。
手の平で額を押さえて、机に肘を付けながら耐えた。
波のように頭痛は押し寄せて、どんどん酷くなっていく気がする。
賭けの結果は忍足も向日もハズレだ。
やっぱり俺達は上手くいくはずがなかった。
ケンカするほど仲が良いなんて嘘っぱちだ。
今までどちらも"疲れた"と言い出せずにだらだらと付き合っただけ。
けど。
だけど。
こんなに胸が痛むのは。
――――――まだ、が好きだから。
頭痛がだんだん酷くなって。
その内意識が薄れていくのが分かった。
まるで第三者の視線で見ているかのように。
そのまま瞳を瞑って、椅子から転げ落ちたのは聞いた話。
「ん……っ」
「あ、気がつきましたか?」
目を開けて見えたのは真っ白な天井ではなく、
夕陽でオレンジに溶けた眩しい銀髪だった。
「急に教室で倒れたらしいですよ、覚えてますか?」
「……覚えてねぇ」
「跡部さんが今日部活は休めって言ってました」
「そうか……」
「じゃあ俺、宍戸さんの鞄取ってきます」
「悪ぃな」
「いえ、一緒に帰りましょう」
いつも通りを装ってか、長太郎は笑んで、
優しい言葉を俺にかけて、保健室を後にした。
「情けねぇ……」
腕で目を覆い隠して、夕陽を遮断した。
あんな綺麗な夕陽が見れるほど、今の俺は穏やかじゃねぇ。
こんなに自分は脆い人間だったか。
誰かのためにこんなに怯えたことがあったか。
本当は怖ぇんだ、俺は。
に振られてしまうことが何より。
だから、自分から切ってしまおうなんて。
自分がより傷つかない方法で断ち切ったんだ。
「激ダサ……」
いつもは他人にかける言葉が。
こうやって自分に返って来るなんて思いもしなかった。
そう。
俺は激ダサ。
自分に自信を持てなくて。
大事なものを苦しくて手離してしまう
どうしようもなく、激ダサな、俺。
「長太郎、帰ろうぜ」
ガラリ、と。
保健室のドアが開いたのが聞こえて。
大分意識が戻った頭を軽く小突いて。
ベッドから降りると。
「……バカじゃないのっ!!」
ひどく震えた声で。
立ち上がった俺に鞄を投げつけた、。
手さげ袋だったそれから散乱する教科書、筆箱。
でも。
それを追うのを遮ったのは。
すぐさま抱き締められた、の身体。
ああ、そういえば。
まだ抱き締めたことなかった、とか。
そんな今はどうでも良いことが頭を遮る。
いや。
その前に俺はに何をした?
手を繋いだか?
街中に一緒に出掛けたか?
優しすぎるほどの甘い言葉を囁いたか?
キスをしたか?
瞳の中にお互いを映すほど見つめあったか?
寂しそうにする肩を抱き締めたり出来たか?
そっと腕をの背に回した。
初めて抱き締めたその身体は。
温かくて、柔らかい。
華奢な肩が小刻みに揺れて。
細い腕に力が入って、俺の二の腕を掴む。
ああ、俺はなんてことを。
こんな華奢な肩に全てを背負わせていた。
何もしない恐怖に、は何とか気付かないようにしてたのに。
何が言葉に出来ないだ。
結局"しなかった"ことに変わりねぇ。
"愛してる"って言葉も言えねぇ、ただのダセェ男だ。
当たり前のことだ。
俺がを必要なら。
にとって、俺が必要な存在で。
そんな当たり前なこと、どうしてこうならなきゃ気付かねぇんだ。
「何とか、言いなさいよ……ッ!」
「……わりぃ」
「そんなのっ、知ってるわよ……ッ!!」
今、俺に出来るのは。
この華奢な肩を抱き締めるだけ。
問題は。
これから自分がどう行動するか。
手離すなんて言わずに、一緒にいられる方法を考える。
考えるのは苦手だけど。
それがのためなら、って思うとちっとも苦じゃねぇのは何でだろうな。
今は謝ることしか出来ねぇけど。
きっと、これからは。
きっと、これからは――――――。
「日曜、どっか行くか?」
ジローから返したもらった漫画を読みながら、
面食らった顔をするが笑える。
「……遊園地じゃなきゃ、許さない」
少し照れながら言うに少し笑いながら。
「10時に駅前、遅刻厳禁な?」
「部活、頑張って!」
部活行く俺に。
初めて向けてくれる笑顔に。
俺はまた。
言葉に出来ない恋をしてしまいそうだ。
+++++++++++
私の宍戸は何故いつもこんなに弱々さんなのか(真顔)
大好きなのは大好きなのですが、本当にコレは宍戸なのか。
うーん、他サイトさんのは萌えるのとか多いのに、
何故私の宍戸への愛は空回るのか……。
6/3 追記。
後編がそんなに長くなかったので併合してみました。
いやぁ、お待たせして本当にスイマセン。
まだまだ書きかけなのは多いので頑張ります。
後、宍戸って本当に難しいです(真顔)
もう書かないかも……(笑)
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