秋も終わりかけの冬間近。
木々も季節が変わろうとする気配を感じてか。
秋に爛々と繁っていた紅葉は枯れて、落ち葉となる。




"スキ"と"好き"の違い




「落ち葉見てると……焼きイモ、食べたくならない?」
「それ良いね……
 あ、そういえばさっき「焼きイモ〜」って聞こえなかった?」
「ホント!?もっと早く言ってよねぇ、長太郎ってば」
「ごめんごめん」


氷帝学園からずーっと続く並木道。
私と長太郎は毎日この道を手を繋いで帰る。
私はクラブに所属してないんだけど、
長太郎がクラブ終わるまで図書室で待ってるの。
そういえば図書室のすぐ近くにあるイチョウの木の下、落ち葉ですごかったなぁ……。


「うーん、すぐ近く通らないかなぁ……焼きイモ、美味しくて大好きなの」
「が焼きイモ好きだなんて知らなかったなぁ……」
「亮にぃから聞いてない?よく2人で家抜け出して外に買いに行ってたの♪」
「へぇ……」
「ちょっと笑わないでよっ!
 あ、長太郎の家、結構大きいから食べたことないとか?」
「いや、俺も昔同じようなことしてたなぁーって思って……」
「ホント!?じゃあ私達、似た者同士だねー」
「……宍戸さんもだけど」
「ん?何か言った?」
「いや、別に」


そう言って長太郎は笑顔をくれる。
……だけど、最近その笑顔に違和感を感じるの。
無理して笑ってるような……そんなカンジ。



だけど、クラブで疲れてるだけかもしんないって自分に言い聞かせて……



聞けないでいる。
長太郎の本当の気持ち、聞けないでいる。


私は亮にぃ……えと、宍戸亮と幼馴染なの、年齢的には1個下なんだけど。
小さい時は一緒に色々遊んでたけど。
亮にぃが氷帝学園に入って、クラブが忙しくて遊べなくなった。
亮にぃのお母さんの勧めで私も入学して、上級生の亮にぃはとってもカッコ良かった。
テニスコートはいつもキャーキャーって黄色い声援で亮にぃもかなり人気あったみたい。

それで2年生になって、長太郎と同じクラスになって、
亮にぃとダブルス組むって聞いてすぐ仲良くなった。
私達の共通の会話は亮にぃで……
あの優しい笑顔を見てると、何だかこっちまで笑顔になる瞬間が好きで。
告白された時は正直嬉しかった……



このままずーっと一緒に笑ってたいと思ったの。



「あ、あそこで落ち葉掃除してるー……
 あの落ち葉持って帰って焼きイモしたいなぁー……」
「は本当に食べ物に目がないな」
「もっちろん!冬の始まりは焼きイモって決めてるのよね〜」
「じゃあ、探す?」
「ホント?だから長太郎ってスキー」
「何か付け加えみたいでやだなー」


抱くように腕を組むと、
長太郎は苦笑しながら私の髪に軽くキスしてくれた。
お返しにと言わんばかりに私も長太郎の頬にキス。
そして見つめあって唇にキス。
「ふふ」って笑うと長太郎も「はは」って笑う。



この瞬間が実は1番スキ。
私は長太郎が好きで、長太郎も私を好きでいてくれるって分かるから。



「じゃあ俺この辺探してくるからはココ、座ってて」
「えー、良いよ!私も探す!!」
「公園付近に通ったら探し損になるだろ?だから通ったら電話して」
「……はぁーい」
「うん、じゃあ行って来る!」
「いってらっしゃい」


長太郎は優しい。
ものすごぉーく優しい。
きっと寒い中私を歩かせるのが嫌で、
ベンチに座らせて疲れさせたくないんだと思う。


そんなさりげない優しさ……
嬉しいけど、私は長太郎と一緒に居たいって思うの。



……贅沢かな?



ずっと手を繋いで。
時にはキスして愛を確かめ合って。
ずっと長太郎の傍に居たいの。


すぐ近くにあった自販機でココア買って、白い湯気の温もりを頬で感じる。
ふーって息を吹きかけて、湯気で遊んでから一口飲む。



暖かい。
長太郎みたい。



「、何してんだ?」
「亮にぃ」


そんなこと考えてたら急に周りが暗くなってて、
見上げたら亮にぃが私を見下げてた。
「いる?」ってココアを差し出したら、
「いい」って断られちゃった。


「長太郎が焼きイモ探しに行って、それ待ってるの」
「長太郎が?……そういえばもうそんな季節か……早ぇな」
「でしょー?落ち葉見てたら食べたくなっちゃって」
「昔、庭でやって火事になりかけてお袋にかなり怒られたよな、今考えると激ダサだな」
「アハハ、確かに……でもダメって言われると余計に食べたくなってよく家抜け出したよね」
「あぁ、思い出すと懐かしいな」
「うん、懐かしい……亮にぃがテニスなんか始めなきゃずっと遊んでられたのにー」
「テニスなんか言うな、今時テニスも出来ねぇなんて激ダサだぜ?」
「うっさい!もう亮にぃなんかきらーい!!」
「おいおい……っと、ちょっと待て」


そんな言い合いが続こうとしてた時、
亮にぃの携帯が鳴った。


……彼女からみたい。


「分かった、すぐ行く」


そう言って亮にぃは電話を切って「行くわ」と私に言った。


「彼女?」
「ん……まぁ、そんなとこ」
「激ダサな所見せちゃダメだよ」
「分かってらぁ!……じゃあな」
「うん、バイバイ」


そう言って亮にぃは学校の方へと戻っていった。
……彼女、まだ学校に居たのかな?

亮にぃと会話してて。
秋寒さで少し冷めてしまったココアを一口。
また一口飲む。



長太郎……ドコまで行ったんだろ。
電話した方が良いかな……。



「……」
「わっ、長太郎!ドコまで行ってたの?心配したよー」


背後から声を掛けられて振り向くと。
焼きイモを持った長太郎が居た。
少し沈んでいるように見えるのは気のせい?



……きっと、私が走らせて疲れてるせいよね。



「大丈夫?ベンチ座って2人で食べよ?」


近寄って、焼きイモを受け取って長太郎をベンチへと促す。
だけど長太郎ーは1歩も動かなくて。
クエスチョンマークを頭に浮かべて俯いた顔を覗き込んでみる。


「ちょうた、ろう……?」
「は……やっぱり宍戸先輩の方がスキ?」
「え……?」
「俺と居るときより宍戸先輩と一緒に居た方が楽しそうに笑うよね」
「そんなことっ」
「ないって言える?今そこでも楽しそうに笑ってたよ」
「見て、たの……?」
「うん、出るに出られなくて……
 の彼氏は俺なのに……宍戸先輩の方がお似合いな気がして」
「……何で?何でそんなこと思うの?」
「俺がいつも宍戸先輩に嫉妬してたの知ってた?
 俺が宍戸先輩の話をしたら「亮にぃらしい」って
 同意するのに悔しい思いしてたの知ってた?
 俺は……今までの2人のこと知らない……
 2人はドコか深い所で繋がってる気がしてた……」
「それは……幼馴染だし、私は……」
「俺はのこと好きだよ、でもも俺のこと好きじゃないと嫌なんだ……
 独占欲強くて、自分でも嫌になるけど」


長太郎がそう言った瞬間。
今までで1番強い風が吹いて木々に付いていた枯葉がヒラヒラと舞い落ちた。
そして、落ち葉となって私達の足元に落ちてくる。



長太郎の気持ちも一緒に落ちてしまってないよね?



「私は……長太郎のことが世界で1番大好きだよ……
 もちろん彼氏として。
 亮にぃはお兄ちゃんみたいで好きなだけで……
 長太郎との接点がそれしかなかったから、よく話してただけで……
 長太郎は優しいから……その優しさに私は甘えてたね、
 長太郎の想いに気付けなくて、ごめんね?」


「……」


「長太郎の優しさが好き。
 長太郎の笑顔が好き。
 長太郎の全てが好き。
 心の中で想うだけで口に出さなかったね。
 きっと伝わってるって、言葉に出さなくても伝わってるって。
 長太郎が最近無理に笑うことも分かってた。
 なのに、私は勝手な思い違いして……伝わってなかった。
 やっぱり言葉に出さなきゃダメよね」




「ごめんなさい、私は長太郎が好きよ」


さぁっと最後の秋風が吹いて、
落ち葉も舞い上がって踊りだす。
こうやって初めて口に出す愛の言葉は自分の気持ちに正直になれて。
胸に痞えていた何かを落としてくれた。


「……ごめん、疑ったりして……
 宍戸先輩が彼女と上手くいってないの知ってたから……不安になった」
「そう、なの……?」
「最低だな、俺……嫉妬深くて、パートナーにまで疑いをかけるなんて……」
「嫉妬深い長太郎も好き」
「え?」
「だって私だけ愛してくれてる証拠でしょ?……大好き」


自分から長太郎を抱きしめるのは初めてで、
意外と胴回りがしっかりしてるのも初めて知った。
背中に手を回して、長太郎のしっかりした胸に顔を埋めて、
長太郎の感触を改めて知る。
長太郎もおずおずとしながらだけど、
私の背中に手を回して私達は抱き合った。
寒い冬の始まりも感じさせぬ長太郎の肌……暖かくて大好きよ。



「、好きだよ……」
「私も、好き……」



"スキ"が"好き"に変わった瞬間、
私達の本当の恋は始まりを告げたんだ。




「あー、焼きイモ……落としてたの気付かなかった……」


無我夢中で長太郎に想いを伝えるのに必死で、
焼きイモが落ち葉まみれになっているのに気付かなかった。
ついでに風でベンチに置いていた飲みかけのココアも白いベンチの上で染みを作っていた。


「公園の掃除係さんに見つかったら怒られるかなぁー……」
「逃げよっか」
「え?」
「逃げたら見つからないよ、きっと」
「……長太郎がそんなこと言うなんて意外」
「こんな俺はキライ?」


極上の笑顔で私にそう言う長太郎を見て、頬にキス。
そして。


「まさか!だぁ〜いすきっ!!」


そう告げて走り出す。
風によって踊らされてる落ち葉がまるで私達を祝福してくれてるようだった。






+++++++++++
自分が長太郎とラブラブしたいために書いたのです。
ちょっと宍戸ドリと繋がる所がありまーすね。
久しぶりだ。こんなラビュラビュドリ。(死語)
しかし、長太郎のタメ語はどうしてこう、うそ臭いのか。


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