「佐伯くん、好き」
狂ってる。
「……大好き」
こんな自分、狂ってる。
狂った気持ち
「……ッ、はっ……!」
真っ暗闇の中で、ティッシュを引き抜く小気味良い音が響く。
吐き出された欲望は。
俺が意識的に隠したかのように、真っ暗で見えない。
心音は鼓膜を破る勢いで、太腿は汗と精液で汚れている。
さっきシャワーを浴びたばかりなのに。
どこか冷めた自分がそう、頭の中で呟いた。
じめじめと後ろ髪下の首に湧く汗が気持ち悪い。
太腿を這う精液がドロドロしていて、焦らされているみたいだ。
両手を目の前に翳せば。
白く濁った精液がこびり付いている。
でも俺は、それが君の愛液に見えて仕方がない。
君のはどんな味がするのだろうか。
君のはどんな匂いがするのだろうか。
君のはどれくらい指の間で光るのだろうか。
君のはどんな風にいやらしい音を奏でるのだろうか。
狂気を抑えるように手にこびり付いた精液を顔に塗りたくる。
妙に冷たい手で、俺は自分の意識を取り戻す。
白濁の世界から意識を戻すと。
背負うのはいつも。
背徳だけ。
「……別れよう」
「え?」
突然だった。
君へ、別れを告げるのは。
いつも一緒に食べようと約束した屋上で。
彼女が広げたお弁当を尻目に、そんな言葉を吐いた。
訪れる静寂。
そんな中、俺は。
"玉子焼きは塩味にしてくれたのか"とか、
"たこさんウィンナーが焦げている"だとか、
どうでも良いことに思考を飛ばしていた。
すぐ見える君の手には。
苦手な料理をして傷ついた指を隠す絆創膏。
ああ、まただ。
また、あの感覚が俺を、襲う。
「……どう、して?」
指が痛むだろうに。
君は構わず黒いプリーツスカートの上で握り締める。
嗚呼。
俺が聞きたいのは、そんなんじゃない。
そんな上ずった声じゃないんだ。
もっと、もっと。
「じゃ、到底俺を理解しきれないよ」
そんな風に震えて欲しいんじゃない。
そんな風に涙を流して欲しいんじゃない。
そんな風に嗚咽を我慢して欲しいんじゃない。
「佐伯くん……!」
「じゃあね」
そんな風に俺を呼んで欲しいんじゃない。
嗚呼、俺は狂っている。
「あん……ぅっ……んん!」
君から溢れるのは、汗と愛液。
ピンで留められる刹那の蝶々のように。
乱れる肢体を気にせずに、一心不乱に首を振る。
上ずった無意識な喘ぎ。
快感に身悶え、震える身体。
甘い痛みに勝手に流れる生理的な涙。
それが雑じりに雑じって鼓膜を響かす嗚咽。
そう。
俺が君から聞きたいのは、それ。
君が俺でいっぱいになって、酔いしれる姿。
「こじ、ろ……あぁっ!」
そう。
君はそんな風に俺を呼べば良いんだ。
傷ついた指を1本1本丁寧に舐め上げる。
そして。
「……んっ」
俺も君をそう呼べば良いんだ。
君と舌を絡めて。
お互い雑ざり合った唾液を君の頬を涙を拭いながら、舌で塗りたくる。
ベトベトになる、君の顔。
ああ、それでも愛しいよ。
「、どうして、欲しい?」
追い詰めるだけ追い詰めて。
嫌だと拒否出来ない境地まで迫って。
後は君の中に指を差し込むだけなのに。
荒い呼吸が君の唇から漏れる。
言葉にならない喘ぎが口内を這いずりまわり、
華奢な腕で俺の背に回して爪を立てる。
それを見て、俺は生唾をゴクリと飲み込む。
「?」
「……れて……」
「ん?」
「……こじろっ、の、……いれ、てぇ……!」
こういうのを征服感とでも言うのだろうか。
背筋を冷たい氷の矢が掠めて、這いずりあがる。
脊髄を駆け抜け、脳髄まで到達したとき。
俺は、至福を迎え損ねる。
「……うぅっ、……はぁはぁ」
タラリと、頬から汗が流れ落ちる。
全身に汗をかいていて、べとべととして気持ちが悪い。
怖い夢を見たかのような勢いで飛び起き。
全速力で走ったかのように心臓の音が五月蝿い。
男なら、仕方がない。
夢精なんてこの頃しょっちゅうの出来事で。
俺は最近毎日2回、シャワーを浴びることになっている。
毎日同じような夢を見る。
を穢す、夢を。
細長い君の髪。
折れそうなほど細い君の華奢な四肢。
なのに、柔らかく肉のついた君の肢体。
毎日こんな妄想めいた夢を見る。
大切で大切で仕方ない君を、夢の中で犯す。
清純な君が乱れるのを夢見て、俺は夢精を繰り返す。
何度シャワーで頭を冷やしても。
胸の底にある想いが冷めてくれない。
深夜1時。
バスタオル1枚で風呂から上がると。
「あら、虎次郎……またお風呂?」
と、不可思議な顔して俺を見る母さん。
部活から帰ってからシャワーを浴びてるのを知っているから。
心臓が1度大きく鳴るのを顔に出さずに。
「ああ、目ぇ覚めたら汗かいちゃって」
と、さりげなく横を通りながら。
親に申し訳ない気持ちになる。
まるで。
イエス=キリストに背を向けた背徳者のようだ。
禁忌を犯し、それでも知らん振りをしているけれど。
心の内ではびくびく捌かれないか怯えている。
ああ、そうだよ。
俺は怖いんだ。
俺の実態がバレるのが怖いんだよ。
大切に、大切にしているのに。
俺は君を穢したくて仕方がないんだ。
俺のモノをはめこんで、よがる姿が見たいんだ。
俺はおかしい。
俺は狂っている。
俺は頭に虫でも湧いているのか。
大切だから。
穢したくない気持ちはあるんだ。
だけど、それを上回るほど穢したくて仕方がない。
君を見るたびに。
昨夜の乱れる君が脳裏に浮かんで。
触れてしまえば理性が抑えられなくなりそうで。
怖くて、仕方がないんだ。
君を手離すのは辛い。
だけど、君を力尽くで奪うよりは全然マシだ。
君が俺を恐れる姿なんて怖すぎるんだ。
「佐伯くん……」
止めろよ。
そういうの止めて欲しいんだよ。
俺が朝練で早いの知ってるだろうに。
何時から待っていたんだろうか。
今日も朝から暑い。
いくら夏服でも、汗をかく。
髪を二つに結い、首筋に汗が流れてる。
俺の家の塀に凭れて。
驚いて佇む俺を、上目使いで見つめてくる。
その清純な瞳で。
俺の汚い部分を見透かされるのが怖いんだ。
君は。
こんな俺、嫌いだろう?
こんな君を穢すことしか考えていない俺なんて嫌いだろう?
「佐伯くん」
「……」
「……訳、聞かせて欲しいの」
「……」
「それだけで、良いから」
「それ、だけ?」
「嫌われたく、ないから……それだけで良いの」
理由なんてない。
君に欠点なんか1つもない。
全て、俺が悪いことなんだから。
嫌う?
そんなことあるはずがない。
むしろ好きすぎて、大切すぎて。
俺はどうしたら良いか分からないくらいなのに。
本音を言えれば、どれだけ楽か。
俺の本質を知らせるのはいとも簡単だけど、
それは俺が嫌われてしまう理由になるだろう。
怖い、怖い、怖すぎる。
そんなの俺は耐えられない。
俺は。
俺は君が居ないと。
――――――死んでしまうかもしれない。
「……いつから」
「え?」
「いつから、待ってたの?」
「……5時半」
いつも通り弁当袋を持っているから、
きっともっと早くから起きているのだろう。
ああ、止めてくれ。
愛しいと思わせないで欲しいんだ。
そのまま抱きしめて、押し倒して。
唇ごと、全て奪ってしまいたいだとか思わせないでくれ。
昨日も君の夢を見たばかりだ。
君が俺を乞い、求め、悶えたのを妄想したばかりだ。
俺は、抑えられそうにない。
「……どうして、私じゃ理解出来ないの?」
「……」
「佐伯くん!黙ってちゃ分からないよ!!」
それは、初めて見る光景だった。
鞄と弁当袋を放り投げて、俺のシャツに掴みかかった。
夢では背に回された腕が。
現実では俺に掴みかかっている。
その腕を取って、夢の続きをしてしまいそうだ。
「……ない」
「え?」
「には分からないよ」
「だから、どうして?」
「……言わせないで欲しい」
「……何、を?」
「だからっ!……言えない」
「佐伯くん!」
「……俺を、嫌うだろう?」
「え?」
「本当の俺は、きっとには好かれないよ」
自嘲して、視線を逸らすと。
が俺の頬に手を添え、俺と向き合わせる。
清い君の瞳が。
汚れた俺を突き刺す。
「……好きだよ?」
「……どんな俺でも?」
「うん、好き」
「……本当に?」
「……うん」
「なら、部屋入って……俺と、シテ?」
「シ、テ……?」
「ずっと」
「……っ」
シャツの裾を引っ張る腕を握り締め、
手首を引き、胸に顔を埋めさせる。
「この髪を指で梳きたい。
この唇を吐息で触れたい。
この身体を舌で撫でたい」
「……」
「君が俺の下でよがる姿が見たい。
君に俺が欲しいと懇願して欲しい。
君を俺でいっぱいにして、もっと、と頼んで欲しい。
……何度も想像しては、抜いた」
「……」
「大切だから。
好きすぎるから。
嫌われるのが怖いから。
……に、言えなかった」
心の中ではいつも名前で呼んでいて。
初めて、君を名前で呼んだ。
心の中で呼び慣れているから、何故か名字より呼びやすい気がする。
「……私だって」
「え?」
「私だって、ずっと……」
「……」
「虎次郎が、誘ってくれるの……待ってた」
君が赤面してそう言うから。
俺はたまらなくなって、腕を引いて家に入った。
両親はどちらも仕事に出掛けて、今日は居ない。
玄関すぐの階段を駆け上って、
2階の部屋にを押し込む。
腕を放り投げて、乱暴にベッドの上に座らせる。
「……っ!」
「ゴメン、我慢出来ない」
夢が、現実に変わる刹那。
絆創膏だらけの指を1本1本丁寧に舐め、
そのまま唇に挟んで絆創膏を脱がす。
初めて舐める君の指は小さくて、滑らかで。
関節を甘噛みすると、君は小さく悲鳴をあげる。
「んん……!」
「……」
全部舐め上げて、次は初めてのキスをする。
強引に口を割らして、舌をねじ込む。
歯列の裏を舌で這いずりまわし、口内の性感帯を犯す。
「んん……ふ……んぁ……」
ブラウスのボタンを外し、下着に手を添え、ホックを外す。
そのまま胸を乱暴に揉み扱き、勃つ突起を口に含む。
「んぁ……!……はぁ、んぅ」
反対の手で下半身の下着をずらし。
濡れそぼったそこに、指を突き立てる。
「すごい、濡れてる……」
「いやぁ……んぅ!」
「やっと、見れた……」
自分を、制御しきれない。
ずっと見たくて仕方なかった君の姿がそこに。
触れたくて触れたくて仕方がなかった、君がここに。
俺の思う通りによがり、快感の声を上げる。
上ずった無意識な喘ぎを上げ。
快感に身悶え、震える身体を開き。
甘い痛みに勝手に流れる生理的な涙を舐め上げ。
それが雑じりに雑じって鼓膜を響かす嗚咽が自律神経を麻痺させる。
ぷっくり膨れたそこをゆっくり上下に撫で、
ゆっくり這い上がってくる快感を目を閉じ、耐えている。
無茶苦茶にしてしまいたい。
助けて、と請うまで突き上げてやりたい。
君の肌に赤い斑点を埋めてやりたい。
パンッ。
頬に痛みが走った。
思考に酔っていると、が両手で頬を叩いた。
驚いて手を止めると、苦しそうに息を吐いて、俺を呼ぶ。
「……こじろっ……」
「ん?……幻滅、した?」
「……すきっ、だいすきっ……!」
震える腕を俺の背中に回して、爪を立てて。
耳元でそう囁くから。
俺は余計に、壊れていく。
「最初だから、……許してあげるよ」
本当は俺が欲しいと請うて欲しいけれど。
今日は君の気持ちで我慢するよ。
身体を下げて、濡れそぼるそこに舌を這わせる。
「っぅ……んんー……あんっ!」
甲高い嬌声を抑えようと口を閉ざすが、
それでも漏れる声が俺を、犯す。
どんどん膨れてくる間にある君の入口が見える。
淡い赤で、そこを誰にも見せたことがないのが分かる。
水音がお互いの熱を高める。
君の中に挿れたくて挿れたくて仕方がない。
だけど、俺はそこは抑えて、そこに指を仕込む。
「はぅ!……んんぅ……あぅ……」
きっと、痛いのだろう。
それでも目を閉じて我慢して、大粒の涙を流す。
これから段々を壊していく。
それでも君は、俺を好きだと言ってくれるだろうか。
俺は狂気に侵されている。
ゴメン、でももう止められない。
いつか。
この狂気を止めることが出来るだろうか。
「……ゴメン」
「っ、え?」
「きっと、もう、止められない……」
「……一緒に堕ちっれば、問題ないっ、よ……」
君がそう言ってくれる限り。
俺はずっと、堕ち続けるに違いない。
「ゴメン」
君に聞こえたかは分からない。
甘い、悲鳴のような嬌声が鼓膜を突き刺して。
君の体内に俺を埋め込んで、突き上げて。
中に出したくなる衝動を抑えながら。
君の腹の上に出して、一息ついて、想う。
好き。
好きだ。
好きすぎる。
もう止められない。
この狂気は、永遠に君へのモノ。
+++++++++++
水上涼は何を血迷ったのか(苦笑)
スイマセン、唐突にこんなの書いてみたくなったんです!
もう、ホント、出来に関してはノーコメントで(−−;
BACK
|