初恋じゃないのに。
今まで気付くことなんてなかった。

貴方に出会うまでは。
こんな気持ち知らなかったのよ。




交わった視線から始まる恋




横顔が綺麗だけじゃなく。
真正面から見てもとても綺麗な顔立ち。
遠くから、近くから。
どこから見ても出てくる言葉は。

ただ。
"綺麗"だということ。


「綺麗よねぇ……」


教室に一人。
シンと静まったこの教室。
聞こえてくるのは部活に精を出す声や、
吹奏楽部の楽器音や、合唱部の艶のある歌声。

閉じた空間に漏れる微かな音は。
余計に私を一人なんだと思わせる。
別に寂しいとかは感じないけど。

ただ。
焦る気持ちを止められない。

だってあんなに綺麗なんだもの。
私以外にもあの人が好きな人も多いはずだわ。
気持ちは焦るのに。
臆病な私は行動することが出来ない。

私に出来ることは教室からテニスコートを見つめるだけ。
最近、特別に建設された大きなテニスコートは
私の教室から丁度見ることが出来て。
観月くんを含むレギュラーメンバーはそこで練習している。

綺麗過ぎて、逆に怖い。
カーボン紙で真っ黒に塗られたような髪。
少し薄い紫がかった瞳。
日本人が持っているオーラとは少し違うようで。


とにかく、近づきにくい。
でも、近くにいきたい。


矛盾するこの気持ちは。
破裂しそうなほど限界まで達してる。
焦っているのはその証拠。
好きな人の傍には居たいんだもの。


「観月……」


そう小さく呟けば。
何かに気付いたように貴方は振り返った。



目が、合った。



時間にしては1秒もなかったと思う。
だって。
驚いて窓の下に隠れてしまったもの。

ドッドッドッと。
早鐘のように鼓動が聞こえる。
自分の心臓からじゃなくて。
まるで第三者の心臓の音を聞いているような。

聞こえたのかと思った。
私の呼びかけが、聞こえたかと思ったの。

誰にも言っていないこの気持ちを。
一番最初に気付いたのは紛れもない貴方かもしれないって。




でも。
でもね。
鼓動が収まっていくと。
自然と頭も冷静になってきて。

一度も話したことない相手が。
貴方のこと想ってるなんて。
貴方にとっちゃ滑稽なんじゃない?

自分の気持ちも言えない私なんか。
きっと貴方の眼中にもないんだわ。

柄じゃないわ。
こんな、私。
なに少女漫画のヒロインみたいなことしてんだか。

情けなくて自嘲の笑いが教室に響いた。
笑いと共に落ちたのは、涙。
私には似合わないくらいの透明な涙。


「ばっか、みたい……」


無音にかき消されるほどの掠れた声。
今まで聞こえてた周音も。
もう聞こえない。


聞こえるのは。
ただ、私の想い。


「……さんっ」


幻聴かと思った。
でもそれは艶のある知っている声で。
走ってきたのか息が上がっていて。
頬が少し上気していて。

いつの間にか開いていたドアの横に。
貴方は凛と立っていた。


「観月、くん……」


初めて交わした言葉は、お互いの名字。
自然と出たのは普段呼び慣れてるからで。
何だか気味が悪いほど妙に落ち着いていて。
ずっと考えてたものとは違った。

薄い紫色の双眸が私を見つめて。
きゅんと胸が苦しくなるのは。
きっと、そう。
愛しいから。

愛しいと思うほど切なくて。
切ないと感じるほど愛しくて。
どうしようもないくらい大好きで。

何か、感じるの。
ただの一目惚れだとは思えないの。
だって、顔じゃないもの。
確かに素敵な顔をしているけれど。

私には分かる。
ううん。
私にだけは分かるの。


「僕のことが好きなんですか?」


率直に聞かれたその言葉に。
私はこくんと頷いて。


「観月くんは?」


そう問いかければ。
貴方は顔のラインに指を這わせて。
ふむ、と少し俯いて。


「僕もですよ」


交わされた言葉は少ないけれど。
私達はきっと視線で会話をしていた。

観月くんが見ていない所で私が。
私が見ていない所で観月くんが。
視線で訴えあっていたのね。


「手始めに今日は一緒に帰りましょうか?」
「……うん」
「じゃあ少し待っててください」


運命。
なんてそんな大層なものじゃないかもしれない。
でも初めて交わった視線で気持ちが通じたのは確かで。



"交わった視線から始まる恋"



とでも名付けようか。

颯爽と去った観月くんが居た場所を見つめて。
私はクスクスと笑みを零した。






+++++++++++
書き逃げっぽくてすいません……!!
でも実は続きがあるんです、ハイ。
すぐに次もアップしますです。
忍足のもそろそろ書きたいなぁ……


BACK