交わった視線から伝わる想い
僕はデータを集めるのが得意ですから。
もちろん貴女のデータも集めてますよ。
でも。
困ったことがありまして。
貴女のデータを集めるほど。
見えなくなるのは貴女の気持ち。
データを集めれば分かると思ってたんですよ。
貴女の気持ちが僕に見える、と。
だけど。
見えてくるのは自分が浅はかだという事実。
んふっ、この私をこうも思わせるのは
貴女が初めてですよ?
どうしてそんな視線をぶつけてくるんですか?
気配を感じて振り返っても。
貴女はいつも違う場所を見ているけど。
僕には分かる。
いや。
僕にだけは分かるんですよ。
熱視線をぶつけてくるのは貴女だと。
何故なんでしょうね。
僕にもよく分からないんですよ。
別段他の子と変わった所もないければ、
だからといって暗い訳でもなく。
顔が特別綺麗という訳でもなければ、
だからといって決して不細工ではないし。
"普通"
それ以上でなければ、それ以下でもない。
貴女への印象はそんなものだったんですよ。
でも。
視線を感じるようになってから。
振り返れば視線の先に必ず貴女が居て。
胸が、疼くんですよ。
貴女の姿を見るたびに。
息が詰まるように胸が疼いて締め付けるんです。
これは何なんですか?
でも誰かに答えを聞くなんて僕のプライドに反します。
自分で、答えを見つけたいんです。
いくら考えても。
いくら本を開いても。
いくらインターネットで調べても。
この言葉にならない気持ちは載っていなくて。
分からない。
本気で分からないんですよ。
ねぇ、もしかして。
貴女ならこの答えを知ってるんじゃないですか?
僕が知らないその答えを。
貴女が持ってるんじゃないんですか?
ずっと僕を見つめているのは。
その答えを僕に伝えたいからなんじゃないですか?
そうだと良いのに。
そうならこの胸のモヤモヤしたものは取れるのに。
「……づき、観月?」
肩をぽんっと叩かれて意識は急激に引き戻された。
覚醒したように開かれた瞳に
目の前の人物はクスクスと微笑を浮かべた。
「どうしたの?何か考えごと?」
「え、いや、色々ありまして……」
「分かった」
「はい?」
「例のあの子でしょ?」
より深く笑む問いかけに、
僕は正直驚いてより大きく目を見開いた。
「俺が知らないとでも思ってた?クスクス」
「……何のことですか?」
ここでしらをきっても木更津は気付いているのでしょう。
でも、自分でもまだよく分からないんです。
その気持ちを他人に言うのはおかしいでしょう?
それに、まだ人から聞くのには抵抗がありますしね。
「振り向かないでよ?」
「はぁ……」
「教室から見てるよ、あの子」
忠告があったのに。
僕は前触れもなく自分の教室を見るために振り返った。
目が、合った。
のは一瞬で。
貴女はすぐ窓の下へと隠れてしまったから。
でも。
初めて交わった視線から感じたのは。
「あーあ、だから振り向かないでって言ったのに……」
「……木更津」
「ようやく気付いた?……早く行ってあげなよ」
僕にだけ聞こえるように行って。
そう言って柳沢の元へと駆け寄っていった。
礼なんか言いませんよ。
貴方が勝手にそう呟いただけなんですから。
決して教えたなんて思わない方が良いんですからね。
身をもって体験するとは思いませんでした。
確かに告白は何度か受けますけど。
そんなこと、僕には無縁だと思っていました。
今までの僕なら。
話したこともない相手に告白するだなんて
滑稽にしか思えなかったでしょう。
だって上辺だけ見て何になるんですか?
必要なのは中身です、データです。
貴女のデータを集めていたのは。
無意識に、そう、無意識に。
早く伝えたい。
答えが分かったんですよ。
早く貴女に答えが言いたいんですよ。
校舎に入って。
テニスシューズを脱ぐのも面倒で。
そのまま階段、廊下を駆けていく。
教室の前に着いて。
ハァハァと肩で息をしている自分。
こんな自分、きっと今までなら嫌でしょう。
でも。
良いんです。
貴女に先に答えを伝えるのが先でしょうから。
音が鳴らないように教室のドアを開ければ。
両手で顔を覆い隠して。
静かに泣く貴女。
床がキラリと光る。
貴女の落ちた涙が夕日に反射して。
信じられないほど美しい情景に酔う。
愛しい人が泣く姿はこんなにも綺麗で。
それでいて、切ないんですね。
愛しいと比例して、切ないが募る。
「……さんっ」
耐えられなくて、貴女の名字を呼んだ。
ゆっくりと顔を上げた貴女の顔は驚いていて、
いっぱいに目を見開いていて。
涙の跡が。
キラキラと夕日で輝いて。
切なくて、切なくて。
貴女をじっと見つめてしまうんです。
「観月、くん……」
少し上ずった声で僕の名字呼んで。
何故か、初めて呼び合った気がしなかった。
ずっと、ずっと、呼び合っていたような ?
今なら答えが聞けそうな気がする。
教えてください。
貴女になら教えを請うのも良いでしょう。
「僕のことが好きなんですか?」
あまりにも直球の問いに。
貴女は何も言わずにこくりと頷いた。
そして。
貴女は間髪容れずに。
「観月くんは?」
と、問いかけた。
その顔は笑みさえ浮かべていて。
僕も何だか安心して。
今まで感覚がなかった手を
いつものクセで顔のラインに這わせて。
考える振りをして。
少しくらい意地悪させてください。
これだけ僕は悩んだんですよ?
不安な顔くらいしてくださいよ。
でも僕の瞳に映るのは。
自信に満ちたその微笑。
「僕もですよ」
交わされた言葉は少ないけれど。
僕達はきっと視線で会話をしていたんでしょうね。
僕が見ていない所でさんが。
さんが見ていない所で僕が。
視線で訴えあっていたんでしょう。
その瞬間。
胸のモヤが取れて、
綺麗な空気が胸をいっぱいにした。
スッキリして。
そして込み上げてくるのは。
貴女に対する愛情ですよ、さん。
「手始めに今日は一緒に帰りましょうか?」
「……うん」
「じゃあ少し待っててください」
何だか嬉しくて。
僕は教室からまたコートへと駆けました。
早く貴女に会いたいんです。
今まで言えなかった分、言いたいことがたくさんあるんですよ。
さしずめ。
"交わった視線から始まる恋"
とでも言いましょうか?
なんて。
きっと誰かに言ったら笑われるでしょうね。
でも。
貴女になら分かって貰えると思うんですよ。
ねぇ、そうですよね?
さん?
+++++++++++
観月視点でお送りしましたー!
コレです、コレが書きたかったんですよぉ。
先に書いたのは前振りでしかありません、アハ。
観月視点初挑戦です、頑張りますた。
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