なんでだよ。
なんで。
なぁ、なんでなんだよ。
なんで。
よりにもよって。
「不二裕太くん、だよね?」
聖ルドルフ高等部に。
一人の女が転校してきたのは。
「初めまして、です」
いつだったか、なんて。
もうあんまり覚えてない。
勝てねぇのかよ 前
「数学、教えてください」
おもむろに後ろを向いて。
俺を驚かせてるのもお構いなしに。
俺の机に頭を引っ付けて、教えを請う。
「ホントって数学ニガテだよな〜」
「いや、今さっきまでは覚えてたんだけどね」
「"数学だけは授業終了のチャイムで全て忘れる"んだろ?」
「そうなのよ〜、おかしな話よね〜」
「の頭がおかしいんだろ?」
「んなっ、失礼なっ!」
「部活帰りにクレープ奢れよ」
「……私に裕太の部活が終わるまで待ってろと?」
「当たり前だろ、何か文句あんのかよ?」
「……アリマセン」
は変なヤツ。
俺は今まで女と仲良くなれるタチじゃないと思ってた。
ああ、別にホモって訳じゃないんだけど。
ほら、女友達って合わなさそうじゃね?
男の気持ちとか理解出来なさそうだし。
どっかに食い違いが生じるって俺は思ってた。
女の前ではちょっと地が出せなかったりしたのに。
の前じゃそれが自然に出せる。
それは俺が変なんじゃなくて。
自身が変なヤツなんだと、思ってた。
でも。
今日、自覚をしてしまった。
部活が休憩時間で。
俺はふと顔を上げて教室を見ると。
そう、アレはまるで。
俺の姉のような瞳で。
じっと俺を見つめてた。
俺と目が合って。
やわらかに微笑むと。
ゆ
う
た
と。
俺にも分かるように大口を開けて。
手をひらひらと振ってきた。
身体中の血液が。
一気に沸騰したかと思うほど。
体温が急激に上がって。
心臓がドキドキ言い出して。
顔が急に熱くなって。
頬を押さえてから顔を逸らした。
変に思っただろうか?
自分でも何故顔を逸らしたのか分からずに。
俺は何とか鼓動を抑えることに必死で。
に気にかけてる暇はなかった。
幸いにも。
その後すぐに、
観月さんが休憩時間を終了だと言ってくれて。
俺は先輩達にはバレずに済んだけど。
(テニス部の先輩はこういうことにはめざとい。)
帰りに。
何か聞かれるかとまた鼓動が上がったけど。
は何も聞かずに。
クレープを俺に奢って。
そのまま寮に帰っていった。
俺も寮に帰って。
部屋に入ってすぐにベッドに倒れた。
そして考えたのは。
―――――あの時の自分の行動について、だ。
すぐには答えは出なかった。
だって、普通の友達だったし。
恋愛対象として自分は見てなかったはずだし。
ただの、クラスメイトの友達で。
席が前後で。
何かと後ろを向いてきて。
勝手に名前なんか呼んだりして。
数学の後は必ず教えろと言ってきて。
それでも分からずに頭を悩ませる姿は。
柄になく可愛いとか思ったりして。
は部活なんて入ってないのに。
俺との約束は必ず守って。
俺が部活の時間は。
俺を見てるか、携帯を見てるかで。
携帯を見てるときは何故か気付いて欲しくて。
帰りは俺が教室まで迎えに行って。
必ず、お疲れ様、と言ってくれて。
そのまま行きつけのクレープ屋か喫茶店で。
クレープ奢ってくれたり、ケーキ奢ってくれたり。
でも、本当は。
お礼じゃなくっても来たくて。
それで、今度は俺が奢りたくて。
あれ?
論点がずれてないか?
行動についてなのに。
何故俺のことについて語ってんだ?
あれ?あれ??
ちょっと待て。
これ、何かの雑誌で読んだぞ?
確か木更津先輩が貸してくれた……ああ、あった。
ベッドから降りて。
勉強机の棚から何冊か本を出してはしまって。
目的の雑誌を見つけて、パラパラとめくって。
すると。
白い紙がパラリと机に落ちて。
雑誌を置いて。
白いメモ帳を手にとって、読むと。
"裕太が恋してるなんて俺にはバレバレだよ?"
黒いボールペンでそう書かれてあって。
俺は、その答えを見つけた。
その途端、急に顔が熱くなって。
自分の行動を自覚して。
ああ、分かった。
俺は友達だと言い訳してたけど。
本当は、少し前から。
に。
恋を、してたんだ。
俺はそう自覚したけど。
の態度が変わるはずもなく。
だって、にとって俺は友達で。
ただのクラスメイトって存在でしかないから。
自分勝手だけど。
俺はそれがどうしても辛くて。
理由をつけては休み時間教室を出て行った。
数学の授業直後なんてひどいものだ。
誰かに用事があるフリをして。
が振り向く前に後ろのドアから出て行った。
誰も居ない非常階段まで駆けて。
俺は休み時間ごとにそこに溜息を吐いて。
積もる後悔を抑えるようにそこに座る。
なんて俺は意気地なしなんだろう。
避けて、逃げて、自分の気持ちを押さえ込んでる。
男ってのはさ。
こういう時、好きだ、って伝えるもんじゃね?
きっと。
はその内俺のこと嫌いになるんじゃないかな。
だって自分でも分かるくらいに。
あからさまな態度を取ってる。
それは嫌なのに。
友達ですらなくなるのは嫌なのに。
だけど、の顔を見てると。
反則にも抱きしめたくなる。
にとって俺は友達なのに。
抱きしめて、奪いたいとか思ってる。
最低だ、俺。
どうせなら玉砕する覚悟持てば良いのに。
自分の良いように考えを進めて。
俺を、好きになって欲しいとか思ってる。
最低だよ、俺。
+++++++++++
偽者万歳。続きます。
BACK
|