車のドアを開けて、中に居る人にご挨拶。
「千石くん、今日もお疲れさま」
「結構疲れるね〜、こういうバイトも」
ペットボトルの距離
夏の短期バイトで私達は知り合った。
きっかけは友達のが持ってきたバイト情報誌。
「!!これなんか良いんじゃない?」
割の良い短期バイトを探していたので丁度良かった。
それは自販機の補給員のバイト。
二人一組で地域の自販機へと赴いてジュースを補給する。
正直言えば誰でも出来るバイトでもある。
そして私が組まされた彼は。
話せば同じ学年だけど、車の免許を持ってるとのこと。
多くのジュースを運ぶので免許を免許を持ってない私は、
強制的に免許を持ってる人と組まされるのだ。
移動時間は車の中で快適無敵だけど。
外のジリジリとした自販機にジュースが一杯入ったダンボールを
持って行き、黙々と自販機に入れていく単純作業は
誰でも出来るけど、正直暑くて仕方ない。
近くに彼が居るときは話し相手になるけども、
少し離れた場所と分担すれば黙々作業なのである。
「見て見て!千石くん!」
「ん〜、なに〜?」
「今年海になんか行ってないのに肌焼けちゃったよ」
「うわ、ホントだ!……って俺も、Tシャツの型が……」
「あ、ホント。千石くんカッコわる〜い!」
「そっちこそ!ちゃんカッコわる〜い!!」
夕暮れ時の信号待ち。
小トラックを簡単に運転してしまう千石くん。
尊敬の眼差しと。
――――――――別の意味がこもってるのは気付かないで。
一目惚れと言っても過言じゃないかもしれない。
初めての笑顔と握手した時の温かさは忘れられない。
千石くんの隣は楽しくて。
自然と自分から話を振るようになったりして。
バイトの時だけ。
私は千石くんの彼女のような気分で。
でも。
「……夏が終わるねぇ……」
お互い夏の短期バイトだから。
新学期からは生活の主軸は学校となる。
そういえばお互いの学校なんて知らない。
そういえばお互いの連絡先なんて知らない。
ただ。
毎日バイトに行けば会えたから。
私達はバイトで出会い。
私達はバイトで別れる。
知ってるのはお互いの名前と顔だけで。
今まで聞きたくても何となく聞けなくて。
夏だけの交流、なのかな?
私達の関係は、それだけなのかな?
「……お、ラッキー!信号さっきから青ばっかじゃん♪」
私の呟きを聞こえないフリして。
彼は口笛を吹きながら前ばかり見ている。
気付いて欲しい自分と。
気付いて欲しくない自分が。
葛藤して、泣いてる。
夕日がよく心に染みて。
車が営業所まで着かなければ良いなんて思って。
セミが鳴く声が少し少なくなって。
夏が終わらなければ良いなんて思って。
「……そういえばさ」
「う、うん?」
「……ちゃん家って厳しいほう?」
「え?」
「家の人、厳しい人達ばっか?」
「ううん、全然……?」
「じゃあさ、今日晩御飯一緒しない?奢るよ♪」
「……フフッ、千石くん太っ腹だねぇ〜」
「たまにはね♪……後、コレ俺の奢り」
千石くんが差し出したのはペットボトル。
千石くんは飲み口の方を持って。
私は底の方で受け取る。
私達が触れ合うにはペットボトルの距離が邪魔で。
近いような遠いようなそんな距離で。
もう少し伸ばせば届くのに。
なんて想いが横切って夕闇に消えていった。
今はそんなこと良いか。
彼が微笑むんだから私も微笑まなきゃ。
義務感じゃなく自然に笑うことは出来るのよ?
貴方の隣に居ると自然に、ね。
初めての誘いと奢りのジュース。
彼の手が触れたペットボトルの蓋に愛しく触れて。
開けた瞬間。
十分に振られた炭酸ジュースの中身が飛び散って。
私がビショビショになって。
千石くんはそれを見て大爆笑して。
千石くんに青春の責任を取ってもらうのは。
また別のお話。
+++++++++++
ジュース配給員ってバイトで雇えますよね?
何か夏のバイトって感じで良いですよねぇー。
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