俺の彼女は山吹1コントロールの上手い女だと思う。
コントロールの心得
今日もアイツに対しての応援は多い。
フェンスの向こうにタオルやらドリンクやら持った女の子達が
あるヤツを見て黄色い声援を上げている。
けど、ヤツは相変わらずマイペースに練習している。
たまに愛想で手を振ったりするけど、室町に急かされてまたサーブを打つ。
しかし、俺の彼女の声援を聞くと気合を入れるんだよなぁ。
「キヨー!しっかり虎砲打ってねー!!」
必殺技サーブ、虎砲を打つために高く跳んだ千石に
俺の彼女、の声援を聞いて高い位置で頷くと、
室町でもとれないダンクスマッシュ並のサーブを打って
「ラッキー!ちゃ〜ん」とてててっとの元へと駆けていく。
室町が呼んでるにも関わらず。
俺の彼女、はテニス部のマネージャー、そして千石のファン。
自分より大きい千石を可愛い可愛いと言ってメロメロだ。
千石が虎砲を打とうとすれば頑張ってと声援を送るし、
お得意のダンクスマッシュを決めればもフェンスの向こうの女の子達と
一緒になって黄色い声をあげる。
……その姿も可愛いんだけどさ。
「部長」
「室町、どうした?」
今まで千石と練習してた室町がベンチに座ってみてた俺の所にやってきた。
……まさか、俺に続きやれって言うんじゃ……
休憩終わったら東方とダブルス練習するんだけどな。
「千石さん、良いんスか?」
「え?あぁ、練習サボってることか?いつものことだろ?」
「そうじゃなくて……アレですよ」
面倒くさそうに指をさした先にはの隣に千石が並び、
スコアに書いてある今日の帰りにやる筋トレの確認するフリして
上半身をまげてと同じ位置で見ている。
……あ、今千石の唇がの髪に触れた。
俺だって嫉妬しない訳がない。
俺ものこと好きだし、千石みたいにしてみたい。
だけど、俺は肝心なところでこう、勇気が出ないというか……
の髪の毛触るだけでもドキドキすんだよなー、情けない。
千石みたいに自然体でもっとに触れたいとは思う。
……テニスみたいにスパッと決められないんだよなぁ、はぁ。
「まぁ、アレもいつものことっスけどね……さんは千石さんのコントロールが上手い」
俺が心の中で呟いてると室町は「はぁ」と溜息をはいてから言った。
いつもというか毎日だよな、よく我慢してるよ俺、マジで。
もう1度見ると、がコチラに気づいたようで手を振ってきた。
俺も振り返そうと手をあげれば千石も笑顔で手を振ってきて……急にやる気をなくした。
一応手を振り返して、の笑顔を胸に残して余韻を残しつつテニスコートに入った。
「千石さん、続きやりますよ」
「え〜、まだちゃんと話したい〜」
「キヨ、頑張れ!」
「うん、激頑張っちゃう!」
なんて会話を聞きながら。
「東方、やろうぜ」
「あぁ」
今日はサインの練習を新渡米と喜多に付き合ってもらう約束をしていた。
もう心に隙を作るわけにはいかない。
東方と。
そしてとも約束したから。
何度か打ち合ってウォーミングアップし、試合形式でやることになった。
俺はサインを出し、東方が要望通りのサーブを打つ。
そして2-1で俺達がリードし、サインを出して東方がサーブを打った時、
「けんたろー!負けちゃダメだからねーっ!!」
と言ったの声に気をとられて新渡米から返ってきたボールが見えなくて……
ボゴッ
鼻が折れるような打撃音とともに、俺の身体はテニスコートへと倒れた。
う、うそだろ……コレってカッコ悪すぎだろ……
普通は気絶するはずだけど、何故だか俺は意識があるようで周りの声が聞こえる。
「けっ、けんたろーっ!死んじゃいやぁーっ!!」
「落ち着けよ、。室町、保健室まで運ぶぞ」
「何で俺なんスか?」
「つべこべ言わずにさっさと持て!」
「はいはい」
「南〜、ココくらい派手に倒れろよ〜」
「キヨ!けんたろーが死んじゃったらどーしよーっ!!」
「だいじょぶだいじょぶ、こんなんで死んだら地味過ぎるから南も嫌がるよ」
「ホント?」
「ホントホント、いくら地味'sでもね」
「うん、そうだよね!」
納得すんなー!しかも俺死んでないし!!
東方に頬を叩かれ、意識をちゃんと取り戻し東方と室町の肩を借りて立ち上がった。
「健太郎だいじょうぶ?死んでない?」
「見れば分かるだろ、大丈夫」
「ホントにホント?」
「ホントにホント」
「南!俺が肩貸してあげよっか?」
「遠慮する」
「……何で俺なのか分かった気がしまス」
「だろ?」
何故だか全員で保健室まで俺をお見送り……
なんだかんだ言って俺って部長として愛されてる?
いや、そういうこと思うのって不謹慎だよな?
でもちょっと嬉しいかも。
「失礼しまーす」
コンコンと2回ノックしてから保健室のドアを開けると……そこはもぬけの殻。
「仕方ないな」と言いながら東方は室町と一緒に俺を椅子へと座らせた。
東方が怪我の具合を見るために俺の顔を覗き込もうとした……その時、
「はいはーい!レギュラーのみんなは練習に戻って!後は私が治療します〜」
東方をどんっと押しのけ、が俺の前に立ってみんなを外に出るように促す。
ひ、東方は……まん前から床に転んだようだ。
ゴメン、東方。
「えー!?ちゃんコートに戻んないのー?」
「うん、健太郎の治療したらすぐ戻るよ」
「さんもマネージャー業ちゃんとするんスね」
「うわっ、室町くんってばひどいっ!」
「じゃあココはさんに任せて行きましょう、千石さん」
「うーん……分かった!戻ってきてね?」
「もちろん!……って東方くん、貴方も練習に戻るの!」
自分から転がしたクセに床に寝転んだ東方をゆさゆさと揺する。
不本意ながらも東方は何も言わずに俺に一瞥をくれてさっさと保健室を出て行った。
お、俺を睨んだって何もしてないのに……帰るの怖いな。
千石は「またね〜」と、室町は「お大事に」と告げて保健室のドアを閉めた。
「健太郎、ホントに大丈夫?死なない?」
「見たら分かるだろ?結構大きい音鳴ったけど、平気みたいだ……」
「良かったぁ〜、健太郎が死んじゃったらどうしようかと思ったよ……」
いつも思うんだけど大げさなんだよな、は。
テンション上がると普通の子の倍以上騒ぐし、テンション下がると誰よりも泣く。
"健太郎が負けて悔しいのは私も一緒なの"とか言って。
そんなお前が好きなんだ、俺は。
だからあの言葉を何度も思い出す。
「何か別のこと考えてたの?」
「と千石が気になって仕方なかったんだ」
「私と……キヨを?」
「、もう1回言って欲しい……俺の最後のワガママだから」
最初で最後のワガママで、あの言葉がもう1度から聞きたいんだ。
もう言わないから。
それを心の刻みつけるから。
告白の時の言葉。
「キヨの好きはファンの好き、健太郎の好きは愛してるの好き……だよね?」
床に膝をつけて俺を見上げなら言うは最高に可愛い。
少し照れたように言う仕草は俺の中のでナンバーワン飾ってるし。
俺はドキドキしながらの髪を撫でると、は俺の膝辺りのズボンをきゅっと握った。
自然とどちらともなく顔が近づき、唇を重ねあう。
初めてじゃないのに妙に緊張するのは何故だろう?
「……最後じゃなくても良いよ?」
「え?」
唇が離れ、がうっすらと瞳を開けた時にそう呟いた。
最後?何がだ?
「ワガママ。私、健太郎のワガママなら何でも聞けるから、ね?」
……何ではこんなに素直に気持ちを言えるんだろう。
俺はが好きだし、こんな所を尊敬してたりする。
自分では分かってない可愛い顔をして俺をどんどん狂わせていく。
もうどうなったって俺はを離せない。
「私ね、健太郎が―――」
「俺はが好きだから」
「あぁ!もう……うん、私も健太郎のこと大好きだからね」
お互い笑顔になって、また口づけあう。
「ちゃんのコントロールにも磨きがかかってきてるよね〜」
「そうっスね」
「南は応援されると反応するからな、成功するかミスするか分からんのが困るけど」
「千石さんもコントロールされてるじゃないっスか」
「えー?俺はあーやるとちゃんが喜ぶから……」
「十中八九コントロールされてるな」
「そうっスね」
「そうかなぁ〜?」
なんて会話をされてたとも露知らず、はこれからも応援を続けるんだろうな。
+++++++++++
南部長しゃまドリ。この情けない姿が大好きです。
私もキヨをあんな風に応援してみたひ(笑)
BACK
|