「ねぇ、ゴーグルから見える万華鏡ってどんな感じなのかな?」
彼女はそう言って笑ってた。
千石さんがプレゼントした万華鏡を持ちながら。
カレイドスコープ
。
山吹高校2年。
テニス部マネージャー。
俺は彼女のことが好きだったりする。
何でかって?それはよく俺にこのゴーグルについて話してくる内に……なんとなく。
好きになるのに理由なんていらないだろ?
好きなんだ、仕方ない。
俺は基本的に好きな子が好きなタイプだし。
良いだろ、別に。
は可愛いし、よく気がつくし、彼女にしたいナンバーワンだと俺は思ってる。
このゴーグルの奥からでもちゃんとの瞳、見えてるぜ?
「室町くんってゴーグルで瞳が見えないから表情読めないよねぇ〜」
「千石さんよりポーカーフェイスっぽい?」
「あ、そうかも!もしかしてそれでゴーグルしてんの?」
「さぁね」
は俺と会話する度、ゴーグルのことに触れてくる。
彼女の中では"何故俺がこんなゴーグルをしているか"が疑問らしい。
何度も答えを教えてとせがまれたけど、教えない。
だって考えてる時間は俺のことでいっぱいになるんだろ?
だったら余計に教えられない。
四六時中俺のこと考えてて欲しいからさ。
「室町くんってイジワルぅ〜……」
「が入ったばっかの時当てるって言ったんじゃん」
「言ったけどもう1年以上経つのよ?教えてくれたって良いじゃな〜い」
「なになに〜?何の話してんの?」
テニスでも恋愛でもライバルの先輩、千石さん。
とにかく明るくて、バカっぽいけどラッキーと実力は本当で、
今までトスを外したことはないし、Jr選抜に選ばれてたりする。
けど、千石さんの愛読書【月刊プロテニス】での星占いコーナーを
かなり信じてて、他の星座と読み間違えて負けてしまうこともある。
(噂では青学の桃城、不動峰の神尾はどうもそれらしい。)
実力はあるけど、ラッキーあってこその千石さんだからな。
まぁ、そーゆー俺も千石さんには敗戦記録更新中だけど。
「室町くんのゴーグルの話ですよ」
「また〜?ちゃんも懲りないねぇ……」
「だって千石先輩は気になりません?」
「いや、別に?」
意味深にコチラを向いて、ニヤリと笑う。
千石さんは勘が良いからな、しかも今はライバルだし余計にって?
「あ、さっき千石先輩よりポーカーフェイスが上手になりたいから
ゴーグルしてるって案が出たんですよ!」
「えー、何ソレ室町!生意気だなぁ〜」
「本当のことを言ったまでっスよ」
「俺に敗戦記録更新してんのによく言うね〜」
……それをの前で言わないで欲しいのに。
カッコ悪いこととか聞かれたくないのはみんな一緒なのに。
でもこんな時ははいつも、
「さぁさ!もう練習しましょ!!ね、室町くん?」
と、敗戦記録の話になると話を逸らして俺達を練習させようとする。
俺がこの話をされるのが嫌がってるのが分かってるみたいで。
こういう気遣いか俺にはじーんとくるんだよな。
改めて好きだって思う瞬間、だよな。
千石さんの背中をぐいぐい押して、テニスコートに入るフェンス扉を抜ける。
「ほら、室町くんも早く!」
振り返って笑顔で言うが好きだ。
俺は口元だけで笑って「あぁ」と言ってテニスコートに駆け出した。
部長の「今日の練習は終わり」という声ですごすごと下級生が片付けを始めた時、
「あー、そうだそうだ!ちゃん!!」
部長と話しているの隣に行き、にこにこと笑顔してる。
「何だよお前、気持ち悪いな」
「知りたい〜?」
「何ですか?千石先輩」
スコアブックを閉め、千石さんの顔を見るため見上げる仕草が
こっから見てる俺も可愛いと思う……俺も後5センチで千石さんと並ぶんだけどな。
千石さんはテニスしてる人達から見れば小さいけど、一応170センチあるもんな。
って俺も人のこと言えないけどさ。
「ダダダダーン!明日誕生日だよね?休みだから今日渡そうと思ってたんだ♪」
せ、千石さんも知ってた!?
くそっ、俺だけにバースデープレゼント渡そうと思ってたのに……
「あははっ、壇くんのマネー?」
「はぁ、ったくお前は……」
「でもプレゼントは嬉しいです、開けても良いですか?」
は千石さんから綺麗にラッピングされた袋を受け取り、
千石さんの了解を取ると、破らないようにそっと開けていく。
……片付け途中だけど、気になって仕方がない!
一応今日は一緒に帰るって約束してるけど……今、気になるんだよ。
「わぁ、万華鏡……?」
「そっ!ちゃんと同じ綺麗で可愛いの選んできたから」
「あははっ、褒めすぎですよ……わぁ、ホントに綺麗……」
「ちゃんみたいでしょ?」
「……」
部長はもう言葉も出ないらしい。
千石さんの隣では万華鏡に夢中になってくるくる回している。
「……今日からキミはカレちゃんだ!」
「カレ、ちゃん?」
「万華鏡って英語でカレイドスコープって言うんですよ?綺麗な名前ですよね〜」
「へぇ、初めて知った……」
一通り見終わったが万華鏡を指差しながらそんなことを言った。
何かのマンガに出てくるモノに何でも名前付けてる子居たよな、似てる。
そんな新しいを発見をしたけど、それは千石さんも同じで。
正直言えば悔しいよな。
だって俺だけが発見したかったことだし。
のことは何でも俺が1番知っておきたい。
だって好きだから。
のこと好きだから。
それに……プレゼントが。
「あ、室町くん!見て見て、もらっちゃった!!」
俺の視線に気づいて、がこっちに走ってきた。
その後ろで千石さんが勝ち誇ったような顔でこっちを見てる。
ムカつく。
ココまで千石さんをムカついたのって初めてかもしれない。
その顔を見てると悔しくなって、俺は避けた。
「、俺片付け残ってるから……」
「あ、そうか……ゴメンね、マネージャーなのに……私も手伝うよ!」
は少し寂しそうな笑顔を俺に向けて、散らばったボールを片付け始めた。
倉庫に向かう途中背後から千石さんがを呼ぶ声を聞いて俺はこの日1番の後悔をした。
倉庫の鍵の戸締りをして、日誌を書いて、は部活が終わってからも大変だ。
今日は一緒に帰る約束をしているので俺は部室内でと2人きり。
部長に部室の鍵を頼まれて、俺は無言で鍵がついた輪を指に引っ掛けて振り回してた。
は俺が座ってるベンチからは背を向けて黙々と日誌を書いている。
……この沈黙は正直重い、けど俺が招いた結果だから仕方がない。
「……ふぅ、終わった……帰ろっか?室町くん」
おもむろに立ち上がって振り返った顔が少し引きつってる笑顔。
そんな笑顔をさせたい訳じゃないのに。
俺は「ああ」と言って立ち上がり部室を後にした。
いつもなら夕日が当たって葉っぱがキラキラとオレンジ色で綺麗な並木道も
すっかり夕日も落ちてしまえば闇色に染まってしまった木の葉が舞うだけ。
そんな中を無言で歩く俺達、余計に暗い気持ちになってしまう。
「……ゴメンね」
風の音しか入ってこなかった俺の耳にの小さな声が聞こえた。
ふと横を向くと俯いたが居た。
「室町くん、怒ってるよね?」
「何で?」
「……だって不機嫌そうなんだもん」
「喋らないから?」
「違うっ!……分かるの」
「分かる?」
「私、室町くんの瞳見えなくても分かってるつもりだよ?」
……もしかして俺の気持ち分かってて言ってる?
それだったら残酷だ。
いや、知らなくても残酷な言葉だ。
ゴーグルから見えるのまっすぐな瞳は俺によく突き刺さる。
「私ね、正直に言うけど室町くんが好きなの」
ふと立ち止まったがそう呟いた。
丁度街灯に照らされて頬が赤く染まってるのが分かる。
「誰よりも室町くんのこと分かってたい。千石先輩以上に……」
「……千石さん?」
「だって室町くん、千石先輩フリークなんだもん……妬けないわけないでしょ?」
意外だ。いつも仲良いと思ってた千石さんにそんなこと思ってたなんて。
確かに俺は千石さんに対しては敏感だ。
それは実力を認めてて、俺もああなりたいっていう願望もある。
「……俺もが好きなんだけど」
「……ホント?」
「俺も千石さんに妬いてた、仲良いし、いつも」
「それは……少しでも室町くんの瞳に私が映ればなぁ……なんて」
俺達は少し黙って、どちらともなく笑い出した。
それにともなって少し冷たい風が頬を掠めていく。
「ハイ」
「え……?」
おもむろに鞄の中から取り出して、に渡した。
千石さんと一緒の綺麗にラッピングされたプレゼント。
開けて、というとはおずおずとした様子でゆっくりと開いた。
中から出てきたのは――――― 千石さんと同じ万華鏡。
「……コレ」
「まさか千石さんに先越されるとは思わなかったけど」
「……だから機嫌悪かったの?」
「まぁ、そうともいう」
「じゃあ……はい、コレ室町くんにあげる」
「え?コレ、千石さんの……」
制服スカートのポケットから取り出した千石さんの万華鏡を
笑顔で俺の手のひらに乗っけた。
「千石先輩には悪いけど、私のカレちゃんは室町くんのにする」
キーホルダー式になっている万華鏡の輪の部分に指を差込み、
振り子のように揺らして万華鏡を眺めている。
俺にとって嬉しい言葉を言いながら。
「千石先輩にはナイショにしてお揃いの持ってよーよ」
「良いんかな?」
「だからナイショ!私達だけのナイショね」
片目ウインクをして、恥ずかしそうに笑顔する。
そんな姿も愛しくて仕方ない俺はもう重症だな。
「ねぇ、ゴーグルから見える万華鏡ってどんな感じなのかな?」
手のひらに乗っかったままだった千石さんの万華鏡を手に取り、
俺のゴーグルの前にかざした。
「きっと青がかってて綺麗なんだろうね」
そう言ったの笑顔の方が綺麗だと思うんだけど。
俺は「ありがとう」と呟いての手を取った。
「帰ろうぜ」
「……うん」
また恥ずかしそうに頷いて、俺達は歩き出した。
の指にかかったキーホルダーの万華鏡。
千石さんもたまには頼りになるっスね。
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私なりの室町くん像を詰め込みました。
某マンガのすぐ名前をつける少女、分かりました?(笑)
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